BLUE SKYの神様へ〜あの笑顔〜
俺が目覚めてすぐに思い出した記憶は親父の死体が転が戦場だった。
「はあ・・・・・」
本部で、資料の整理をしているアグニスは思いっきりため息をついた。
「どうした?何かあったか?」
いつものように暇をもてあましている俺はアグニスに聞く。
「別に」
「疲れがたまってるんじゃないか?」
そう言って俺はアグニスの顔を見てムウっと睨む。
「何もありません」
「いや・・・疲れがたまってる。
肌のあれ具合とか、化粧ののりとかがいつもより・・・」
「何か言いましたか?」
俺の言葉にアグニスが睨みを聞かせて言う。
「あはは・・・冗談、冗談・・・」
俺はにこやかに冗談を返す。
いつものようにアグニスの働く姿を見つめていたが、今日はなんだか俺の気分もアグニスの気分もさえない感じだった。
アグニスの睨む顔を見て、俺はなるべくにこやかに笑った。
今日は人間の作ったステンドグラスを眺めるか、昼寝でもしようかって雰囲気にもならない。
「じゃあ私はそろそろ・・・・・・・・・」
「そうそう、仕事はお休みしてゆっくり」
「いえ、これから資料庫に行って調べ物を」
「あらら・・・・・・そう」
全くまじめな奴め。
そう心の中で思いながらまた軽く笑う。
「では失礼します」
「アグニス!」
本部の入り口を出ようとしたアグニスを引き止める。
「本当に、休めよ」
「ええ・・・・分かったわ」
何が面白かったのか分からないが、アグニスは少し笑い外に出ていった。
「全く・・・・あの頃とちっとも変わらないな」
おれは面白みのかけらも無い天井を見てため息をついた。
「ライ!!ライ!!」
アグニスの叫ぶ声で俺は目を覚ました。
戦場のど真ん中にいた俺は血まみれで、体を起こすことも出来ない状態になっていた。
辛うじて片目が見えていたが、その瞳に見えていたのはアグニスの泣き顔だった。
俺はやっとのことで7班になったばかりで、その直後の戦争だった。
親父は俺を戦場に連れて来たくはなかったようだった。
口には出さなかったが、俺にはなんとなくわかっていた。
だが、俺にとっては自分の力を試すチャンスで、シルメリアの仲間であるという確認になっていたのだと思う。
あの頃が一番感情に左右されていた時期だった気がする。
俺がまだ19歳。
7年前の戦争の時だった。
「ライ!」
目を開けた俺を見てアグニスがまた叫んだ。
「お、親父は?」
切れぎれの言葉にアグニスはボロボロと涙を流す。
少し幼さがあるアグニスの瞳に映る俺がゆらゆらと揺れる。
俺はアグニスの頬に手を差し出そうとして、右腕が食いちぎられているのに気がついた。
その途端に今までの記憶が蘇る。
「親父」
そう俺をかばった親父。
俺の目の前で・・・。
「っ・・・・」
突然現実に引き戻される感覚に襲われる。
ビースト兵の台詞が俺の頭によぎった。
『若きビーストよ。おぬしに殺しは似合わぬ。
我等とらわれの獣だけで十分。
十分なのだ。
すまぬ。
すまぬ。
我を殺せ、そしてもう二度と殺してはならない。
若きビーストよ。おぬしに死は似合わぬ。
おぬしは生きなければならない。
すまぬ。
しかし、おぬしはビーストを良き道へ導く者。
我が魂が殺戮に食われぬうちにおぬしに呪いをかけよう。
すまぬ。
すまぬ。』
本来は感情を殺されて作られるビースト兵。
しかし、俺が最後に殺したそいつは感情を取り戻し、俺に呪いをかけた。
『すまぬ。』その台詞を何度もはきながら。
そして 俺の右腕、右足を食いちぎりながらビースと兵の感情は壊れた。
その後に親父は俺をかばって・・・・・・。
「アグニス・・・・・」
俺は泣きながら左腕を差し出した。
アグニスは俺の手を握って泣き崩れた。
そんな時だった。
俺達の勝利が知らされたのは。
しかし、俺達も敗北と同じようなものだ。
親父・・・・・シルメリア創設者アレクの存在が消えてしまったのだから。
シルメリア本部に運ばれてきた時、真っ先に来たのは幼いルイだった。
「う・・・・嘘!」
「ル・・・・・ルイ」
「嘘!・・・・嘘!・・・・・ウソ!」
俺の知らせを聞いたルイは俺の腕を払いのけ走り去っていく。
俺はその背中を見ることしか出来なかった。
痛みとか、感覚は全くない。
あるのはぽっかりと空いた感情だった。
ルイの背中を見ながら俺の目からは大量に涙があふれてくる。
「ライ」
鼻声になったアグニスが俺に声をかけてきた。
「なあ、アグニス。
俺・・・・・もう駄目だ。
親父が・・・・・・・親父がもういない」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「俺の目標がいないんだ。
もう、笑っていけねえよ」
俺は曇り空を眺めた。
その曇り空は俺の涙のせいで上手く見えない。
「もう、笑えないよ」
親父みたいに。
「駄目だよ!」
アグニスが突然どなりつける。
「駄目だよ・・・・」
「駄目ってなんだよ」
俺はアグニスに力なく言う。
「ライは笑ってなきゃライじゃないよ」
アグニスの手に力が入るのがわかった。
「私の知ってるライは笑ってる」
「だから・・・もう笑えねえよ。俺は」
親父を殺した。
親父は俺のために死んだ。
俺は・・・・もう笑って生きていけねえよ。
「俺はもう笑ってく資格なんてねえよ」
このシルメリアでもっとも大切な人の命を奪ったんだから。
パシン!!
突然の音に俺は目を点にさせた。
その音の後に頬をぶたれたことに気付く。
ゆっくりアグニスのほうを見ると歯を食いしばり鼻を真っ赤にしたアグニスの顔あった。
「馬鹿!!」
「!!!!!!?」
アグニスは俺を睨んだ。
「長のいつも言っていた言葉!」
『今、自分が一番しなくてはいけない事をする』
親父の口癖が脳裏に蘇る。
「ライが今しなきゃならないのは笑うことだよ。
笑って皆を引っ張っていくことだよ。
じゃなきゃ・・・・長がライを守った意味がないよ」
それだけ言うとアグニスはまたボロボロと泣き崩れた。
今俺がしなければならない事。
それは泣き続けることではない。
笑って、生きて、皆を守る力を掴む事。
「そうだな」
俺は今出来るだけの笑顔を作ってアグニスに見せた。
親父みたいにできるかわからない。
けど、俺は皆を守りたい。
親父が守ってきたこのシルメリアを。
あの時から俺は新たな長になった。
「痛かったな・・・あのビンタ」
俺はははっと笑いながら頬をなでた。
俺は結局おき入りの場所であるステンドグラスの前に来て昔の記憶をたどっていた。
「痛かった」
もう一度口に出した言葉がなんだかせつなくて、俺はまたははっと笑った。
「さてさて」
俺はのんびりと歩き始め、調理班の横を通りすぎる。
そのままゆるやかな斜面を登り、丘の上に到達した。
そこにはもう先客がいて、見た事のある背中が座っていた。
「で、何でここにアグニスがいるの?」
俺の言葉にアグニスの特徴である長い耳がピクと動く。
「別に・・・・」
俺の言葉に振り向かずにアグニスは答える。
「ライこそどうして?」
「なんとなく・・・・」
俺はいつもと変わらない返事をした。
「そう」
アグニスもいつもと同じように言う。
「・・・・・・・・」
幼さの消えたアグニスの横顔に、俺は少し笑ってしまった。
「お腹すいてない?」
「え?」
俺の質問にアグニスは一瞬驚いたように振り向く。
「すいてない?」
「・・・・・・・ええ、すいてる」
笑った俺の顔にアグニスも笑って答える。
この瞬間が俺の大切なもので、守っていきたいと思う時間。
俺はこの笑顔とこのシルメリアをずっと守っていきたいと思った。
〜あとがき〜
はいはい〜
今回はアグニスの番外編「変わらない気持ち」ルイの番外編「人魚の子守唄」二つとのリンクがあります
結構繋がっていたんではないでしょうか
楽しかった〜
アグニスとのリンクが特に面白かったです
会話や風景描写は同じなのにお互いが違う決意や気持ちを感じていたのがなんだかジーンときました
ほんと素敵な二人です
ライの人間性も少しは表現できていればうれしいです
でも結局父さんアレク長は登場しません
どんな人なんだろ・・・