BLUE SKYの神様へ〜戦争条約〜





 俺は電灯代わりのたいまつを目印に歩いていた。

 あの後、これからの作戦やら何やらの話を後ろで聞いていた。

オギロッドの予測どおり、条約文がすぐに届き、戦争からは逃げられないことも分かった。

普段騒がしいインペリアの人々も戦争の準備に緊張感があふれている。

俺は脈も落ち着き、マルフィスにも問題無いと言われた。

明日には戦争が始まる・・・・・・。

そう思えば思うほど寝床につく気になれず、俺はふらふらと歩いていた。

『お前はこの戦いに関係ない。』

いや・・・・・・・。

関係ある。

俺の目的はシラを助けること。

そして、五大上神の抹殺。

ヤマトと同じように。

軍事基地には五大上神の誰かが居る。

そいつを殺すためには・・・・・・・。

俺はふと目に写った建物に入った。

真っ暗な部屋の中にほのかに光るサヤの溶媒器。

そこは天界最後の人間、サヤの部屋だった。

俺はゆっくりサヤに近づいていき、ガラスに手を当てた。

鼓動がしっかり聞こえる。

「生きてるだろう?」

俺は急な声に驚き、後ろを振り返った。

そこには機械の上に座っているライの姿があった。

「ライ!いつから?」

 「ん?お前が入って来る前から」

 そう言ってライはサヤの溶媒器を眺めた。

 「生きてるだろう?

 鼓動が聞こえる。」

 「ああ・・・・・・。」

 「こいつはずっとこうして生きてきた。

 与えられた命で・・・・・・。

 俺たちビーストと神々の戦争、

 数億年前の古代戦争。

 20年前の二大戦争。

 戦う全てのものを感じながら。」

 「・・・・・・・・・。」

 「また、こうして戦いが起こる。

 また人の命が消える。

 多くの血が流れる。

 夢が、希望が消える。」

 「じゃあ何故人は争うんだ?

  何を戦争に求めているんだ?」

 俺はライに訊いた。

 「生きる場所を探す為。」

 ライは悲しそうにサヤを見ながら答えた。

 「俺たちは生きる場所無く生まれ、死んでいく。

 神々が奪っていく。

 そんなの・・・・・・おかしい。

 皆、生きる場所があるのは当然だ!

 それをなぜ神々は奪う!」

 「・・・・・・・・」

 「だったら俺は、俺たちは自分たちの生きる場所を奪い返す。

 その為の戦いをする。」

 「ライ・・・・・・」

 「お前は何の為に戦う?」

 ライの言葉に俺は少し間を空けて言った。

 「前にも言ったはずだが、『ある人を救うために・・・・』と」

 「ああ」

 「そのままだ」

 「そうか・・・・・・」

 ライはいつもと違う、落ち着いた笑い方をした。

 「なあレイン」

 「何だ?」

 「歌を・・・・・・歌ってくれないか?」

 ライが静かに言った。

 その時初めて俺はライの手が震えているのに気づいた。

 『シルメリアの長』

 その肩書きがライを潰しているのが分かった。

 俺は大きく息を吸った。

 歌は静まり返ったサヤの部屋に広がる。

 俺の歌と共に、暗黒の時間は終わり、夜が明けていった。





 「第7班6班は門まで集合!

  5班、10班以外の者はインペリアの地下庫へ!」

 「医療班!こっちへ!」

 「長!長はどこに!」

 たくさんの声に囲まれながら、俺は門のところまで歩いていた。

 「レインの旦那!」

 門をくぐると、緑色のドラゴンの手綱を引きながらカイホンが俺に近づいて来た。

 「カイホン。シクス!」

 シクスは俺の声を聞いた途端、赤い目を輝かせながらグルグルとのどを鳴らした。

 「お気をつけて・・・・・・」

 カイホンは少ししんみりと言った。

 「ああ、」

 俺はカイホンからシクスの手綱を受け取り、蔵に飛び乗った。

 乗り心地は良く、シクスは嬉しそうに鳴いた。

 カイホンはそんな俺の姿を見ると、次のドラゴンを持ち主の元へと連れて行った。

 俺は、ゆっくりシクスを進めた。

 「レインさん!」

 後ろから呼ばれ振り返ると、小春が息を切らしながら走ってきた。

 「小春、もう大丈夫なのか?」

 俺はシクスから降り、小春に話かけた。

 「はい!昨日はえっと・・・・・」

 「いや。もう小春が無事ならいい。

 ビジョンは俺も見たから。」

 「はい・・・・・・。」

 「何か用か?」

 「い、いえ・・・・・・」

 小春はモジモジとして言葉を濁した。

 「あ、リボン・・・・おかしくなってます。」

 「ん?」

 リボンを触ると少しうねっている。

 「・・・・・・・」

 シラのリボン・・・・・。

 「小春。何か髪をくくる物持ってないか?」

 「え?はい。ならこれを」

 小春は髪の毛を束ねていた紐を解き俺に渡してくれた。

 「助かる」

 俺はシラのリボンをゆっくり解き、髪を一つに高く縛り、小春の紐を使った。

 俺は自分の手の中にあるリボンを見つめた。

 シラ・・・・・・。

 俺はこれから人を殺めに行ってくる。

 人の命を奪う戦場に行ってくる。

 必ず。生きて帰ってくる。

 生きて、お前を迎えに行く。

 だから・・・だから・・・。

 「小春。」

 「はい・・・・・・」

 「このリボン」

 俺は小春に赤のリボンを渡した。

 「このリボン。大事なリボンなんだ。

 大事な人からもらった・・・・・・。」

 「分かりました。レインさんが帰ってくるまで私が預かってます。」

 小春は大事そうにリボンを持った。

 「だから・・・生きて帰ってください。」

 「ああ・・・・・・」

 「レイン!」

 アグニスの叫び声が聞こえる。

 「時間だ!」

 「ああ」

 俺はシクスに乗り、小春から離れて門へと向かう。

 「レインさん・・・・・・」

 「?」

 俺は小春の声に振り向いた。

 「え・・・っと。その・・・・・。」

 「行って来る。」 

 「はい。」

 俺は前を向いて歩き出した。

 目的・・・上神の抹殺。

 シラの為に。

 戦争という名の世界へ。








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