BLUE SKYの神様へ〜神々の島から〜




 「はあ・・・はあ・・・・・・・」

 俺は走り去ったスグローグを追いかけながら、インペリアへと急いだ。

 スグローグはもう見えなくなってしまい、俺が本部に着いたときはもう皆が集まっていた。

 「ライ!!!」

 俺は急いで話そうとすると、ライは手を上げ俺の話を止めた。

 「今スグローグに全部聞いた」

 そこには幹部のスグローグやコヨーテ、アグニス、オギロッドとライ、ルイがいた。

 「軍は何でも使ってくる。それが例え人だったとしても」

 ライは真剣に話を始めた。

 「しかし、何故今なんだ?なぜこんなに唐突に・・・」

 ルイが苦い顔をして言う。

 「何か原因があるのかも知れません」

 アグニスが淡々と言う。

 「かもしれないし、そうではないかもしれない」

 コヨーテが付け加える。

 「どちらにせよ、戦いの準備だ。明日にでも軍から戦争条約についての手紙も来るだろう」

 オギロッドが言う。

 「条約?」

 俺はアグニスに幹部に離れた席に進められ、座った。

 「我々の戦いはただの殺し合いではない。条約内の戦いをする事だ。

  その上で、宣戦布告と共に条約の内容も入っているはず」

 「なるほど・・・」

 俺が納得するとライが真剣に言った。

 「お前は・・・どうする?」

 「・・・何の話だ?」

 「お前はこの戦いに関係ない。

 このシルメリアに来てまだ間もないし、自分のしなければいけない事があるのだろう?」

 「・・・・・・・・・・」

 「お前は・・・・・・・」

 ライが話そうとした時、突然入り口の布が開かれた。

 「ライ!!」

 入ってきたのは治療班のマルフィスだった。

 「ライ!小春が!!」

 マルフィスが抱えているのは息が上がった小春だった。

 「小春!」

 ルイが叫ぶ。

 「どうした?」

 ライがマルフィスに言う。

 「小春が急に熱を出して、運ばれてきたのだが、何か重要なビジョンを見ているようなんだ」

 「ビジョン?」

 ライが不思議そうに聞いた。

 「ああ・・・小春がどうしてもみんなに知らせたいといって聞かないので、連れて来た」

 小春は額に汗をかきながらみんなに話し始めた。

 「すいません・・・。

 どうしても・・・・・皆さんに、伝えたくて・・・」

 「ああ・・・何だ?」

 ライがゆっくりと言う。

 「は、はい・・・・・・。

 何か宮殿があります。

 赤い・・・・赤い手すりがどこまでも続いてて、たくさんのお庭がある・・・・・・」

 「それって・・・・・・・」

 俺はある場所が浮かび上がった。

 「そこに黒髪の男の人がいて、何かを話してます。

 黒髪の、黒の軍服を着てる・・・鳥の模様が入った刀を持ってる」

 ガタッ!

 俺は思わず立ち上がった。

 「おい・・・・・・・まさか・・・・・・!!!」

 「レイン?」

 ライが不思議そうに、そして探るように言った。

 「い、いや・・・・・・」

 マルフィスが抱えていた小春を近くにあったソファに寝かした。

 「小春」

 俺はソファの横に座った。

 「そいつ・・・・・・そいつはどんな奴だ?他に特徴は?」

 小春が苦しそうに俺を見つめた。


 マルフィスがタオルで小春の額の汗を拭く。

 「今までこんな事は無かった。

  戦争の知らせを聞いて突然に、だ。

 しかも、今回は訳が違う」

 「違うとは?」

 コヨーテが落ち着き払った声で聞く。

 「小春が言うには、いつもはある場所がただ止まった状態で何回か送られてくるらしい。細切れで。 

 しかし、今回は・・・・・・ビジョンが動いてるらしい」

 「動く?」

 ルイが不思議そうに聞いた。

 「そう、場所も、映像本体も。まるで誰かが見ているものをそのまま見るような・・・・・・」

 「誰かが・・・」

 ライが苦い顔をする。

 「これをこう考えられないか?

  誰かが故意に小春に見せている」

 「!!!!」

 皆がマルフィスの言葉に息を呑んだのが感じられた。

 「しかし、そんな事出来るのか?

ましてや、どこの誰かも分からないのに・・・」

 ルイが言う。

 「問題無い。能力が強ければ出来る事だ。

 治療に使う気送りの応用だと考えてくれればよい。

 その距離が遠いか近いかの違いだ」

 「だがそう簡単に・・・」

 コヨーテが言葉を漏らす。

 「確かに小春の能力は『特殊能力』の分類になるのかも知れない・・・。

 だが、他に説明がつくか?戦争が始まると伝えた途端の出来事。

 誰かが小春の体を使って何かを伝えようとしているのだ。

 それしか・・・」

 マルフィスは小春を心配そうに見る。

 急に苦しそうにする小春を見て俺は何もしてやれなかった。

 「あ・・・あ、レ・・・・・・・」

 小春が俺に手を差し出す。

 俺はゆっくり小春の手を握った。

 「っ!!!!」

 俺は急に痛みを感じ、胸を抑える。

 小春の手から何か強い力が入ってくる。

 苦しい。

 俺は小春の手を離そうとするが動けない。

 「ック・・・・・・」

 目の前がぼやける。

 めまいがする。

 しかし、突然めまいが消え、目の前が明るくなる。

 ここは・・・・・・・

 「宮殿・・・・・・・!」

 そう、ザラードベイスの宮殿。

 シラとすごした場所・・・・・・。

 あの時と何も変わらない。

 中庭に植えられていた木々も、シラと歩いた小川も、何もかも・・・。

 「動いてる?」

 俺は自分の見てる景色が動いているのに気づく。

 自分の意思で動いてはいない。

 誰かの目線で動いているようだ。

 ということは・・・この目線が小春にビジョンを送っている張本人?

 どうやら宮殿の廊下を歩いているようだ。

 前にいるのは見た事のある背中・・・・・・?

 「ヤ、ヤマト?」

 黒の軍服に黒髪。腰に挿している青龍の刀・・・そう、正真正銘ヤマトだった。

 「ヤマト!!!」

 俺は声を上げようとしたが思うように声が出ない。

 ビジョンの影響か?

 この能力者の見ているものを見るだけのようだ。

 景色が動いていく・・・・・・。

 見た事のある光景。

 赤い手すりに沿って歩き、中庭を曲がる。

 右に中庭があり、ベンチがある・・・。

 そして、次の突き当たりを左・・・。

 そう・・・・・・この先にあるのは。

 「シラの・・・・・・部屋」

 俺の意思では動かない世界・・・・・。

 しかし、その景色は俺の行きたい方向・・・シラの部屋に進んでいく。

 いつも見ていた庭・・・・・昔の俺が薄っすらと見えた・・・・・・気がした。

 日の光の差し込む部屋に入ると、見覚えのある水色の髪の背中が見える。

 「シラ!!」

 隣にいたヤマトが何かを話している。

 聞き取れない・・・・・・。

 シラがゆっくりと振り向く。

 シラの瞳はどこを見ているわけでもなくただボーっとこっちを見ていた。

 「シラ!シラ・・・・・シ・・・・・」

 声の出ない俺は叫ぶのをやめた。

 「・・・・・・・・・・」

 俺は何も言えない・・・何も・・・何も・・・。

 シラ・・・俺は・・・・俺は・・・・。

 ヤマトが何か話しかけている。

 シラは反応しないが、ヤマトは少し微笑み部屋を後にした。

 映像もヤマトについていく。

 「どこに向かっているんだ」

 夕日も消え、辺りは薄暗くなっている。

 ヤマトの後に付いて行き、部屋をくぐる。

 何か小さな部屋にたどりついた。

 見たことの無い部屋・・・。

 こんなところまで、来たことがない。

 部屋は薄暗く、カーテンのかかった窓からかすかに光りが入っているだけだった。

 ヤマトがゆっくり刀を抜く。

 奥に誰かいる・・・?

 白髪の背中。

 ヤマトが声をかけ、その背中は驚き振り向く。

 「上神ジュラス!」

 五大上神ジュラス。

 ザラードベイスの管理、及び中界所属の天使の指揮官。

 俺の・・・・・・敵!!!

 ヤマトは何かを叫び、刀を構えた。

 ジュラスは何かを必死に訴える。

 そう、まるで命乞いをしているかのように。

 「今更命乞いか・・・・・?

 戦争をけしかけて、シラにすべてを押し付け、自分は甘い蜜を吸う。

 危険になると何かと理由を付け逃げる。

 そんなことをして、今更命乞いか?

 お前らは何がしたいんだ?

 この世界をどうしたいんだ?

 シラを・・・・・・最神を!!

 お前らは!!!」

 聞こえない事ぐらいわかっている。

 だが俺は叫ばずにはいられなかった。

 今までの想いが沸々と湧き出る。

 「お前らは!」

 俺が叫んだ時、ヤマトが刀を振りかざし、そして・・・・・・。

 「・・・・・・・・」

 俺はいきなりの事で声が出なかった。

 地面が赤く染まる。

 ヤマトの背中は何かを語っているかのように、数分間動かなかった。

 そして、ヤマトは刀の血を振り払って刀を鞘へとしまった。

 その刀には青い目の水晶を入れた龍の模様が描かれている。

 『青龍を司りし、青き魔剣

 あれは私の戦友であるガンクスの手にあったが、あいつは終戦間ぎわにこの世を去った』

 オギロッドの言葉が頭の中に流れ込む。

 「・・・・・・ヤマト」

 ヤマトはゆっくり振り向き、俺を睨んだ。

 ヤマトの頬に付いた一滴の血痕が涙のように流れる。

 突然目の前がぼやけていく。

 「ヤマト!」

 急に体が電気の走ったように痛み出した。

 バチッ!

 激しい音と共に体の感覚が戻ってくる。

 「ック・・・・・・」

 俺は小春の手を思いっきり振り払ってドサリと地面に倒れた。

 「レイン!」

 マルフィスが叫ぶ声が聞こえる。

 「ケホケホッ・・・・・・」

 俺はむせながら自分の胸を押さえた。

 心臓が悲鳴を上げるように早く動き、息が上がる。

 汗が頬を伝っている。

 「レイン!無事か?痛むところは?」

 マルフィスが俺の脈を取りながら言う。

 「はぁ・・・はぁ・・・・・・大丈夫だ・・・」

 俺は汗をふき取り、息を整える。

 小春を見るとさっきの苦しさは消え、寝息を立てている。

 「急に息をしなくなるから・・・無事ならいい」

 マルフィスが俺の額に手を当てながら言う。

 皆が回りに来ていて俺を心配そうに見ていた。

 俺は、その真ん中にいるライを見た。

 「ライ・・・・・・この戦い、俺も関係ありそうだ」

 「・・・・・・・?」

 ライは何か探るように俺を見た。

 俺はニヤリと笑った。







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