BLUE SKYの神様へ〜目覚めた朝〜
「・・・・・・」
「そうか・・やはりあるべき所に帰ったか…」
「・・・・・・・」
「しかし、もう時間の無駄だ…」
「・・・・・」
「あの小僧を殺せ・・そして取り戻せ」
「・・・・・」
「証…地下界…天界…全て我がものに…」
青い水晶…。青空の瞳…水色の髪…。
風が舞う青空…。
赤い…あかい…アカイ…血…。
血…血…ち・・・ち・ち・・・チ・チ・・・チ…血!
『……レイン…』
ガバッ!
俺はうなり声を上げながら体を起こした。
少し頭痛がする。
息が上がっている事に気づき額の汗をぬぐう。
「・・・い・いやな・嫌な夢だった」
あの時の夢だった気がする・・。
『ごめんなさい・・』
シラの顔がまだはっきりとまぶたに焼き付いている。
「やっぱり…泣いてた…な」
俺は長く伸びた前髪と一緒に血を拭うように左目を押さえた。
「………」
悪夢は、あれからたまに見るようになっていた。
その為、あまり驚きもしなかったが、いい気分になる訳がなく、俺の気持ちは沈んでいた。
俺は首を振りギシギシときしむ古びたベッドから降りる。
体にまとわり付く薄い毛布を床に振り落としながら、グシャグシャの髪をなでた。
そして、カーテンからの木漏れ日に向かって歩き、カーテンと窓を開ける。
部屋に光が差し込む。
太陽はもうすでに頭の上に来ていた。
俺はあごが外れるほどの大あくびをし、窓のわきに手をかけた。
下を覗くと一階の飲食店に客が入っていくのが見える。
あの事件から約半年。
俺はあの砂漠を死に物狂いで抜け出し、この天界を彷徨っている。
ザラードベイスにいた時には考えられない世界が俺を待っていた。
この世界は、俺が想像していたものより程遠いものだった。
宮殿にあった本は、みなただのデマを振りまいた紙切れでしかなかった。
たくさんの町や村を見てきた。
その中でこの世界は気候の変化がおかしいことに気づいた。
年がら年中天候が曇りの地域や、雷が舞う山脈、風の通らぬ町…たくさんの現実を見てきた。
旅の者に聞いた話では、この気候の異変が始まったのは大昔の神と悪魔、人間の争いが原因だという伝説が残っているらしい。
「まあ、この町は…」
ゴオオオオ・・・
カーテンがバサバサとうねる。
寝起きのため、グシャグシャだった髪がさらにもつれる。
「…ものすごい突風の名所みたいだな」
グ〜…
俺は腹を押さえた。
「とりあえず・・・メシ」
俺はカーテンを閉め、床に転がっているポシェット付きのベルトをつけた。そして上着を着、刀を腰にさす。
小さな部屋の隅にある大きな机の上に手を伸ばし、赤のリボンを取った。
そして、しっかりと自分の髪にくくりつけ、上から上着のフードを深く被った。
一度部屋の中を見回し、入り口まで来ると、左目をゆっくり閉じ、ドアを開けた。
狭く、埃っぽい廊下を抜けて、そのまま階段を下りる。
そして、その先の机や、椅子が置いてある部屋に入っていった。
中は少し煙たく、机には何組かの客がワイワイと昼間から酒を飲み交わしている
俺は一番隅のカウンターに座り、右目で辺りを窺う。
「おう、ボウズ。やっと起きたか?
まぁ今朝のあの時間に来たんだから、まだ寝足りないか?」
カウンターから顔を出した店の主人が声をかけてきた。口ひげを生やしていて、ずんぐりとした男だ。
「本当にすまない。あんな時間に入れてもらって」
そう、俺は今日の早朝にこの店に泊まったばかりで、まだかなりの寝不足である。
「いいってことよ。わしは早起きでね。あの時はもう起きて料理の下ごしらえをしていたところだったしな。それに…」
主人はニヤリと笑った。
「ボウズを外の物騒な所で野宿させるような考えは持ち合わせていないんでね」
おれはボウズという言葉は自分の年に合っていないので、ややカチンときたが、現実に外見はそんな風に見えているので、何とも言えない。
「何か食うかい?」
「ああ…」
主人はそれだけ聞くと店の裏の方に消えていった。
俺はフードから耳を出し、周りの話し声に耳を傾けた。
やはり話は最近の作物の出来具合や、大通りの市場の状況、とある店の娘の話など、何の役にも立たない話ばかりだった。
「はぁ…」
やはりだめかぁ…と思った時。
一番隅のテーブルからの話が、耳に入ってきた。
「おい、聞いたか?
山脈を越えた所にある軍事基地にあの五大上神の誰かが来ているらしいぞ?」
俺はその話を聞きとろうと集中した。
「ああ、聞いた。アストラ平原のことだろう?
何でも半年前に神々の都が襲われたという噂が広まって、ゲリラの襲撃や、神々に不満をもった者の反撃を制圧するために、世界各地に姿を現しているらしいぞ」
「ご苦労だなぁ…
にしても最神は相変わらず出てこずじまいか…。
死神は裏で何をやっているのやら」
「政治家の考えていることは分からんなあ」
その話をすませると、そいつらはまた他の話を始めた。
俺はもう聞く必要が無いと判断し、耳をフードに隠した。
この天界を彷徨っていて分かったこと、シラはこの世界を動かす「悪に見舞われし死神」と呼ばれているようだ。
しかも、まだ上神は五大上神と名乗り、フィールの死を隠している。
軍事基地…上神はザラードベイスに留まっていない…。
「アストラ平原…」
「はい、お待ち」
そう言って俺の前に突然鳥の燻製が出てきた。
「それと、これはサービス」
そう言って店の主人は小さなガラスのコップと、少し青みがかったブランデーの入ったビンを俺の前に置いた。
この天界では、酒の飲める年齢は決まっておらず、人間界よりもかなりの酒が作られている。
主人は、俺を「ただの金持ちの家の子供が家出をしているだけ」だと思っているらしく、飲めるものなら飲んでみろ、という風に俺を見ている。
「ありがとう」
俺は主人の態度に腹が立ったが、サービスだと聞いて、ありがたく頂いた。
俺はコップの3分の2ほどその酒を注ぐと、また情報はないか、と辺りを見ながらそれをグイっと飲んだ。
「なっ!!」
主人はびっくりした顔で俺を見つめた。
「この酒、何て名前だ?」
「ファンダ…という酒だ」
「ファンダ?聞いたこと無いな」
「この町に古くから伝わる酒だ…。
うちで扱っている酒の中で、一番きついものだぞ…」
「これで?水っぽいな」
俺はそれだけ言うとまた瓶から青い水をコップに注いだ。