BLUE SKYの神様へ〜巻き込まれた騒動〜
「あら、いらっしゃい」
料理に手をつけている横に、お盆を抱えた女の人が現れた。
癖毛のあるオレンジの髪をショートにまとめ、赤いワンピースに上にエプロンを着ている。年は十八、十九ぐらいだろう。
俺より背が高い。
「えらく、若いお客さんね。名前は?」
「・・・名前はまず自分から名乗るものだろう」
俺はポツリと言い返した。
「あら、ごめんなさい。
私はルシーナ。ここの店の娘よ」
「レイン・・・」
俺は料理を口に運びながら、仕方なく名乗った。
「旅をしているの?こんなに若いのに」
ルシーナは俺に興味を示したのか、楽しそうに話しかけてくる。
「どうしてこの町に?
年はいくつ?
どのくらい旅をしてるの?
何をしにこの町に?」
「ザマンという老婆がいるはずなんだが・・」
俺は質問攻めの最後の質問にだけ答えた。
「・・・・・」
俺が「ザマン」の名前を出すと、ルシーナと店の主人は目を合わせた。
「・・・何か情報でもあるのか?」
俺はファンダ酒に口をつけた。
「あの、あの魔女に何の用事だ?」
「魔女?」
主人は真剣な顔で俺の席に近づいた。
「ああ・・なんでも、気候を操れるらしい。
雷を落としたり、竜巻を発生させたり・・」
「私は物を浮かせたって話を聞いたことがあるわ」
ルシーナが話を付け加える。
「へぇ〜」
俺は少しこわばった顔の二人に、笑いをこらえながら言った。
二人の言っている事は能力のことだろう。
能力は元々神や、天使は必ず扱える物だった。
しかし、古代戦争。
いわゆる人間が、天界から中界に落とされた戦争を境に、使う者がいなくなったらしい。
その為今では「能力=特別な者意以外使えない」という考えが定着しているようだ。
ザラードベイス(神々の住む島)ではその事実を記した資料は全く無い。また上神の企みなのだろうか・・・。
俺も、この事実を知ってからなるべく能力の事を話さないようにしている。
使えるとなると、化け物呼ばわりか、何かの英雄呼ばわりかのどちらかだ。
「じゃあ、知ってるんだな、そいつの居場所を」
「知ってるのは・・・知ってるけど・・」
いかにも嫌そうに二人は声を合わせて言った。
ドカーン!!
後ろの席から大きな音とともに、机や椅子が散乱し始めた。
「まただ・・・。毎回毎回止めてくれ!」
主人は頭を掻いて音のする方に歩いていく。
そこには、辺りにいる客より体のでかい、あごひげの立派な男が暴れていた。
ルシーナが俺に耳打ちしてきた。
「グルタっていうの。ここら辺だと自分が一番強いからって、いつも皆に迷惑をかけているの」
そう言い終るとルシーナは自分の父親を追って、暴れ回る怪物の方へ歩いて行った。
「うるせー!
俺に文句でもあるのかぁ!!?
そう叫んでいるグルタを周りの客は睨んでいる。
しかし、さすがに立ち上がる者はいない。
「勘弁してくれ・・・・
ここはわしの店なんだ。
喧嘩なら他でやってくれ!」
主人はお客の波の中からグルタに向かって言った。
「なんだぁ?
お前は俺に指図するのか?」
グルタは店の主人を軽くひょいっと持ち上げ、壁にたたきつけた。
少し手加減しているように見えるが、力はかなりの物だ。
「父さん!!」
ルシーナは壁にぶつけられた父親に駆け寄った。
主人はゲホゲホとむせ、ぐったりしている。
「グルタさんもういいかげんにして!!!」
ルシーナが怒りをあらわにした目でグルタを睨み、目の前に立ちはだかった。
「何だと?」
グルタはドンッとルシーナを押しのけ、目の前にあるイスを壁に投げつけた。
ルシーナはバランスを崩し、こけそうになる。
俺は立ち上がり、倒れそうになったルシーナを支えた。
「あ、ありがとう」
「いや・・・。あの客、全くマナーがなってないな」
「へ?」
俺は隣のイスにルシーナを座らせた。
そして、暴れる怪物に向かって歩いて行った。
「あ、危ないわ!」
その声に俺は振り向かず、ひらひらと手を振った。
そのまま目の前にあるイスを踏み台にして、グルタという男が今まさに掴み、投げようとしている机へ音もなしに飛び乗った。
「!!」
急な俺の行動に驚いたのだろう、グルタは二,三歩後ろに下がった。
「何だお前!」
しかし、現れたのは自分の胸ほどの背丈しかないただのガキだと分かった途端、また二,三歩出て俺を睨んだ。
「おっさん。うるさくてろくに飯も食えない」
「ぁあ?何だって?」
「少し、その臭い口を塞いでもらいたい」
「なんだとぉ!!」
化け物は俺の言葉を聴くと、拳を震わせた。
そして、その拳を俺の頭の上に下ろしてきた。
バキ!
机は見事に破壊されたが、俺はフワリとグルタの頭の上を通り越し、後ろの机に着地した。
「何!」
グルタが後ろを振り向こうとした時、俺はゴツゴツの背中に思いっきり蹴りを入れた。
バキッ!
ものすごい音でグルタは真っ二つにした机の上で伸びていた。
周りの客や、ルシーナはただ口を塞ぐことを忘れ、俺と巨体のグルタを交互に見ていた。
俺は一回息を整え机から降りた。
そして、自分の席に座り、コップに注いでいた青い水を飲んだ。
「あなた・・・何者?」
隣に座っているルシーナは俺を化け物を見るような目で見た。
「さぁ・・・俺にも分からん」
俺は閉じている左側の目をさすった。