BLUE SKYの神様へ〜レジスタンスの存在〜


「はぁ・・・・」

山脈を抜け、平原まで少しといったある日、俺は空を見上げてため息をついた。

空はもう星空になっていて、透き通っていた。

俺は火を焚き、その周りに座って残っていた食料の果物をかじっていた。

風の町からどれぐらい日数が経ったのだろう・・。

 あれからは旅人に数人会っただけで、俺はずっと一人旅をしていた。

 坂道の連続で、足が悲鳴を上げている。俺は足をさすった。

 やっと超えた山脈・・。

 「ラミア・・・かぁ」

 そう、目的はラミアという老婆に会いに行く事。

 そして・・・。

 「アストラ平原の先にある、軍事基地・・・」

 俺はぼそりとその言葉を吐き、炎を見つめた。

 ガサッ・・・・・

「!!」

何か物音が聞こえた!そして、何かの影が見えた。

俺は立ち上がり、刀を抜こうと構える。

「・・・・・」

沈黙が続く・・・。

と、突然俺の体がフラッと揺れる。

「・・・っな」

何が起こっている!!

体が思うように動かない!!

 「ック・・・クッソ・・・」

両足が俺の体重を支えきれなくなり、俺の体はその場に倒れた。

意識が遠のく・・・・・。

まぶたがゆっくりと閉じていく。

駄目だ!動け!!

目の前が真っ暗になる・・。

俺の思いとは反対に、体は・・・・。

 

 

 

 

「迂闊・・・」

大きなため息をついて、俺は辺りを見回した。

どこかの部屋にいるようだ。目には布が巻きつけてあって、何も見えないが、髪が揺れる感覚から、空気は上と正面から入ってきているようだ。

両手は、座っているイスの背もたれの後ろに回されて、ロープで結ばれている。

頭を少し動かしてみると、シラのリボンはあるようだが、刀は流石に無いようだ。

え〜っと・・・・確か俺はザマンから聞いたラミアという人へ会いにヘリオス山脈を越えて、アストラ平原を抜ける途中で・・・。野宿をしていて、何か物音が聞こえて・・それでー。

「何で記憶が無いんだ?」

「それは催眠ガスを吸ったからだ」

独り言のはずの言葉に男の声で返事が返る。

目の前から少し風が来る。

1人・・いや2人。

「アグニス。」

「ええ」

男の声・・・とそれに答える女の声。

足音と何かコツコツという音も混じっている。杖の音か?

と、布が外され、俺の目に光が戻って来た。

俺は左目だけをゆっくりと開けた。

目の前には、薄い水色の髪をした男が立っていた。

歳は二十七歳ぐらいだろう。くるぶしまである丈の長い上着をはおり、少し長めのピアスをしている。左の腕はひじの上辺りで無くなっていて、その肌には天使の証であるペルゲの入れ墨が入っている。左足も膝の少し下でなくなっていて、そこから木の棒を義足にしているようだ。

後ろの女はこげ茶色の髪で、見たことの無い耳の形をしている。猫に近いと言えばいいのだろうか。眼鏡をかけて薄いルージュをつけている。

「さ〜って、何でここに来た?」

「お前等が連れて来たんだろうが」

ニヤリと笑う男に、俺はブスリと言った。

「何でこのアストラ平原に来たのかって聞いているの。」

後ろの女にブスリと言い返される。

「目的はなんだ?軍のスパイか?」

  さらに男が聞いてくる。

「軍・・・?ということはここは何か軍に関係しているのか?」

俺は、まずいと思ったが男が不思議な顔をしているので俺の事を知らないようだ。少し安心した。

「何にも知らないみたいだな〜。どうする〜?アグニスー」

男はふざけたように言って、女に聞く。

「どうもこうも、尋問してでも吐かさないと。この平原の、しかも軍事基地に向かっていたのだから。」

「でも、たまたま軍基地がある方向に用事があったのかもよ?」

 「そうそう」

 男の言葉に、俺も同意した。まあ本当は、軍基地に大上神の誰がいるのかを調べたかったんだが・・・。

 「ライ・・・あなた何でそいつの肩を持つのよ。」

 「いやーこういう事すんの嫌なんだよね。こいつ、何も知らないみたいだし・・・。」

「何言っているの。あなたはシルメリアの長でしょうが。」

 そう言って先程アグニスと呼ばれた女は俺の前に立ち、ライと呼ばれた男はおぼつかない足取りで二・歩下がった。

 「シルメリア・・・?」

「ずいぶん何も知らない振りをするのね・・・・」

 そう言ってアグニスは俺の首元に、自分の腰にあったナイフを突きつけた。

「!」

 「おいおい、急にそんな物騒なもん出して・・・」

「こんなもんでも出さないと口を割らないでしょう。」

 俺は女をにらみつけた。

 「そうだな・・・話を聞くにはそういう脅しが一番いいよ・・な!」

 俺は後ろでくくられた掌に力を集中させる。

 そして一気に力を入れた。

 途端に指先から鋭い風が起こりロープはちぎれた。

俺はアグニスのナイフを奪うと、そいつの頭の上を飛び越え、ライという男の前に音もなく着地し、そいつにナイフを突きつけた。

その時、普通にはない違和感を覚えた。           

 「・・・なっ・・・なんだ!?」

俺は不意をつかれたように声を上げた。

ナイフの前には、何か分からない水のような溶液が男を守るように立ちふさがっている。

どんなに強くナイフを押しても男には届かない。

「・・・クッ!」

後ろの女が向きを変え、襲って来ようとしている。

俺はナイフを女の喉に持っていき、男の前にある溶液には反対の手の平を当てた。

その溶液はかなりの弾力がある

 俺はそのまま能力で冷気を呼び、溶液を少し凍らせた。

 溶液は男の左腕の切断された部分から出ているようだ。

 ピキピキと音を立てた溶液は白く濁ってきた。

「さあ・・・今のとこ形勢逆転だが・・・」

 女は俺に向かって殴ろうとした拳をぴたりと止め唇をかみ締めた。

 男は笑った顔をしている。この状態を楽しんでいるのか?

 「さあ教えてもらおうか?ここはどこだ?シルメリアは何だ?そして・・」

 俺はライという男を見た。

 「この液は何だ?能力か?」

 男はますますニヤリと笑った。

 「それを聞いてどうする?」

 「聞いてから考える。」

 何と言っても俺はそこら中に敵がいるもんだからな・・・こいつらが味方かどうかも分からない。

3人の間に静かな沈黙が続いた。

すると急に、入り口から足音が聞こえたと思うと布から顔が出てきた。

「兄貴・・・・!」

ライに似た男が顔を出す。

そして、とっさに3人の体勢を見て状況を把握したようだ。

すぐに持っていた二本の刀を抜いて、それを俺に向かって構えた。

「貴様・・・何をやっている!」

少し、構えが昔の軍の構えに似ている・・・。

俺はため息をつき、腕を頭の上に上げた。

持っていたナイフも地面に落とし、元いたイスにドカリと座った。

 アグニスは瞬時にナイフを拾い、自分の腰にある鞘に戻した。

突然乱入してきた男は俺の首元に刀を突きつけた。

「ルイ!刀を下ろせ!」

液がいつの間にか消えているライが言った。

「だが!!」

俺は手を上げたまま、そいつを睨んだ。

ルイと呼ばれた奴は俺を睨みながら刀を下ろし、後ろにさがった。

変わりにライが俺の前に来て言った。

「何故すぐに逃げなかった。

あの場合、俺達のどちらかを殺して逃げることができたはず。

ルイが来ていたとしても同じだ。」 

「・・・・」

俺はライを睨んだが、ライは笑って俺の顔を見た。

「はぁ・・・。」

俺はまた大きなため息をついた。

「1に、このまま逃げてもさっき言った睡眠何とかをまた使われたら、同じことの繰り返しになる。

2に、ここがどこか分からない。どこなのか分からないと逃げようが無い。

3に、シルメリアとは何か、知っておきたかった。どういう団体か、どれぐらい人数がいるのか。逃げても追っ手が多けりゃまた捕まりかねない。」

「瞬時にそこまで・・・」

 アグニスが言った。

「本当はどこに行こうとしていた。」

ライの質問に答える方がいいのか悩んだが、こいつの言った通りにした方がよさそうだ。

ライの話しは逆の考えも出来る。

俺が動きを見せた時、こいつらは俺を殺してもよかったはずだ。

今抵抗しても意味の無い事だろう。

「軍事基地だ。」

「やはり・・・・」

 アグニスが俺を睨みつけて言った。

「兄貴・・・こいつ一体・・・」

 ルイと呼ばれた奴はライを見て言った。

 「・・・」

 ライは俺の前に座り込み、イスに座っている俺と目線を合わせ、笑った。
  
 「どうして軍事基地に?」
 
 「・・・・」

 「・・・・」

 少しの間を作り、俺はライに食ってかかるように言った。
 
 「やり遂げなければならない事がある・・・・」

 「それは軍のためか?」

 「いや・・・」

  ―――大切な人を守る為―――――

 ある目的の為だ!

「・・・・・」

「・・・・・」

「お前は軍人じゃない・・・と?」

ライは俺の言葉の後に間を作り言った。

俺はライの目を見て頷いた

「分かった。」

そう言ってライは立ち上がった。

「ライ!」

ライの体がぐらつくのを支えながらアグニスが叫んだ。

「どうしてあなたはいつもこうなの!?いつも言ってるのに!!

  軍のスパイかも知れないのよ!?」

「アグニス・・・いつも言ってるが、俺はこう見えても人を見る目はある方だと思うが?

 現にいままで裏切り者はいないし」

 「そういう意味じゃ」

「それに・・・」

ライは俺を見てきた。

「こいつは・・・・いや」

  意味ありげな言葉を止め、ライはアグニスに支えられながら入り口の布を開き、俺に笑いかけた。

そこから目に痛いほどの光が入ってくる。

「歓迎する」

俺はライの横まで歩いていき、外を眺めた。たくさんの機械のガラクタがそこら中に転がっている。そのガラクタには木々たちが巻きついていた。

「アストラ平原、古代遺跡インペリア・・・そして・・・」

そこにはたくさんの人々の姿が見える。

ライがニヤリと笑った。

レジスタンス・シルメリアへ!



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