BLUE SKYの神様へ〜突然のピンチ〜
俺はコーヒーの入ったマグカップを眺めていた。
大きな部屋だが隅は天井が抜け、空が見えるところがある。
周りには少しばかり見覚えのある機械が並んでいる。
まあ、見覚えの無いものの方が多いが・・。
「なるほど・・」
俺はコーヒーを喉に通した。
「少しは理解した。
つまりここはシルメリアというレジスタンスの本拠地で、マルス軍事基地と睨み合いながら過ごしているということだな」
「そういう事」
ライが笑いながらうなずいた。
「で、そのシルメリアはどれぐらいの規模なんだ?」
「え〜・・・。
ざっと4千人で、ここにいるのは3百人だな。」
「はあ!!!?たった4千!?軍は天界軍だけでも8百万人いるんだぞ!」
俺は思わず立ち上がろうとしていた。
「しかもあのマルスには1千人はいると聞いたぞ!!!」
「みたいだな」
ライはにへらっと笑った。
アグニスはにやけた顔のライの右足を踏んだ。
「ふぐあ!!!
い、いや俺たちは人数は少ないが、戦闘能力が高いものが多くてね・・。心配ない」
「それにあのマルス軍事基地は元々軍に背いた者の処刑を担当している。
我々に気づいているが、我々が戦いを挑まないと争いにならない。
それに、本当に戦闘になって使える奴など数えるほどしかいない」
そう言ってアグニスが付け加えをした。
アグニスもルイも俺がシルメリアに入ることが気に入らないようだが、何とか話はしてもらっている。
「インペリアとは?」
「大昔ここに住んでいた人間の町だそうだ」
ライが俺の質問に答えた。
「なるほどな・・・」
俺は周りを見回した。
「アニキ持って来たぞ!」
部屋に入ってきたルイが持っていたのは、俺の刀だ。
「おう!返してやってくれ」
ルイは一瞬俺を睨みつけ、刀を投げつけた。
俺はうまく受け止め、ルイを睨み返すと、それを腰のベルトに通した。
「そうだ!お前の名前、聞いてないな」
ライが俺を見つめた。
俺はマグカップの中のコーヒーを飲み干した。
「・・・レ」
ドーン!!
急にものすごい音とともに煙にまみれた白髪の男が部屋に入ってきた
「コホコホ・・・すいません」
「またか?コヨーテ」
ルイが叫ぶと同時に部屋の中に煙が舞い始めた。
「いや・・・新しく調合したものが出来たので、ライに見せようと思ってたんですが…途中で爆発してしまって…」
コヨーテは苦笑いした。
「まあケガはないようだからいいけど・・・」
アグニスがあたりに漂う煙を振り払うように、手を振りながら言った。
「はは・・・まあ、いつもの事ですから。・・・おや?あなたは・・・・」
コヨーテという男は、俺を見て首をかしげた。
「ああ、今日から仲間になったんだ」
ライが机に左肘をついて言った。
「こいつはコヨーテ。研究開発をしている」
「ついでに言うと、失敗作を作る名人ね」
アグニスがブスリと言う。
「あはは・・・そこは言わないで下さいよアグニス」
そう言ってコヨーテはにっこり笑って俺に手を差し出した。
「よろしく、新人さん」
「あ、ああ・・」
俺も手を出し握手をする。
コヨーテは、裾の長い白衣を着ていた。
「あんたの目・・・」
「ん?ああこれですか?
ちょっと実験に失敗してしまいましてね・・・」
コヨーテの両目はガラスになっていて、透き通っていた。
眼球がないため、今どこを見ているかも分からない。
「あなたも左側の目・・・・」
「!!」
俺はつぶったままの左目を押さえた。
何か聞かれると思ったが、コヨーテはにっこりと笑っただけだった。
「お名前を教えて頂きたいのですが」
「おお!そうそう、名前!名前!」
ライも言った。
「俺はレ・・・」
バタン!!
「すいません!」
またもや勢いよく人が入ってきた。
「すいません・・すいません・・・」
今度は女の子で、和風の巫女の姿をしている。
首には少し大きな鈴をつけていた。
「えっ・・・・・と・・」
「なんだ?小春」
ルイが言う。
「あ・・・あの・・・・その・・」
小春は勢いよく入ってきたと思うとそこでモジモジして話そうとしない。
「だぁかぁら。一体なんだよ!」
ルイが少しきつく言うと、小春はビクッとして余計にモジモジし始めた。
「小春・・・・何だ?言ってみろ?」
イスに座っているライが小春の方に向いて優しく言った。
「ぁ・・・・あの・・・」
「ああ」
「わ・・・私見たんです。人が襲われている・・・の」
「どこで!」
アグニスが叫んだ。
小春がまた肩をビクッと動かした。
「敵?味方?」
アグニスは早口で聞いた。
「アグニス!」
ライがきつい目つきでアグニスを見つめた。
「・・・ごめんなさい」
アグニスは静かに謝った。
「小春・・誰か分かるか?」
ライが優しく聞く。
「きっと味方・・・」
小春は小さな声で言った。
アグニスとライは目を合わせる。
「誰か分からないか?」
さらにライが小春に聞く。
「分からない・・・」
「そうか・・・」
「ご・・・ごめんなさい」
小春はますますモジモジした。
「場所は?」
「森の中・・・・だと思います・・・・・」
「まだ見えるか?」
「時々・・・・たぶんそんなに遠くないと思います」
小春は手をいじりながら下を向く。
「小春は今起こっている事を感じる事が出来るんです」
俺の隣にいたコヨーテが説明してくれた。
「映像や音で感じ取れるんですよ」
「・・・・・・・・・・・・」
そんな能力聞いたことがない・・。
ライはゆっくり立ち上がった。
その顔にさっきまでのにやけた表情は消えていった。
「よし、コヨーテ、ルイ、スグローグとダングを連れて、小春とそこに向かってくれ!!」
「分かった!!」
ルイはそう叫び、立ち上がった。
ライは俺の方を向いてニヤリと笑う。
「新人、初仕事だ」
「!!」
「一緒に行って、いいとこ見せて来い。そうしたらみんなもお前を認めるだろ?」
「はぁ・・・・分かった」
俺は頭をかきながら席を立った。
俺はまだシルメリアに入ると言っていないのだが・・・。
ここまで来たからには仕方がない・・。
「行くぞ!」
ルイが刀を握り締めた。
「小春頼むぞ・・・・仲間の命、かかってるからな!」
小春が小さくコクンとうなずいた。
「おっと、聞くの忘れるところだった」
みんなが部屋から出ようとしていたところでライはイスに座りながら俺に言った。
「新人!名前、まだ聞いてないぞ」
俺はフッと鼻で笑った。
「・・・・レインだ」
「で・・・いつになったらその助けを求めてる奴の所に行けるんだ!」
「仕方ないでしょう、ルイ。小春は走るの遅いんですし、あなたみたいに体力も無い。ましてやどこら辺にいるのか、見えないんですから」
コヨーテはめがねをかけ直しながらルイに言った。
俺たちは森に入って十分ぐらい経っているが、今だにそんなに進んでいない所にいる。
「・・・・」
ルイはフンっとすねたように顔を背けた。
小春は走ったせいで息が上がり、両手を胸の前で握りしめ、目をつむっている。
「大体、スグローグとダングはいつ来るんだ!後で追いつくとか何とか言っておいて・・・・」
ルイが叫んでいる時に、何か足に触れたような気がして下を向いた。
そこには黒い犬が尻尾をふって自分を見上げていた。
普通よりも大きく、毛もモジャモジャしている。
俺はそいつの頭をなでた。
「ほら見ろ!わしはまだ可愛いワンコでもいけるぞ!」
「!!!」
とたんにその犬がしゃべりだした。
「あれ?スグローグ来てたんですか?」
コヨーテがそう犬に話しかけた。
「すまんな、遅くなって」
その犬今度は真面目にコヨーテに話し返した。
俺は驚きを隠せずさっきまで頭をなでていた手は固まっていた。
「親父!やめてくれよ!
そんな犬のするような事!!嬉しそうに尻尾を振るとか・・」
次に、聞いたこともない声が後ろから聞こえる。
振り向くと、そこには黒髪がピンピンと立っている男がいた。
服は薄着で、左目の上に入れ墨が入っている。
「良いではないか、ダング!
やっぱりわしは、まだまだ若い!!可愛いワンコでもいける!」
狼は黒髪の男に叫んだ。
「だから若いとか若くないとか、ワンコとかは問題じゃなくて・・・。
親父は狼だろうが!」
さらに、黒髪の男は狼に叫んだ。
「問題だ!お前がわしはもう年だとか言うから・・・。
なあ、新人のレイン。わしはまだ可愛いワンコでもいけただろ?ん?」
「・・・・え・・・あ・・」
俺は何か不意を突かれたように狼に話しかけられて、一瞬驚いた。
「何で、俺の名前を?」
「ライから聞いたのだ。わしはスグローグ・・・。こいつは息子の・・」
「ダングだ」
黒髪の男は急に名乗った。
「親子・・・?」
俺は恐る恐る聞いた。
「ああ、正真正銘のな!」
だがそんなことを言われたって信じられない・・・。
父親が狼で、息子が人間・・・?
その時。
「見え・・ました!!」
「!!」
「どっちだ!」
急に小春が声を出したのにも驚いたがその後のルイのどでかい声にもっと驚いた俺は、不思議な親子に聞きたい事が全てどこかへ飛んでしまった。
今まで和んでいた空気が一瞬にして緊迫したものに変わる。
「あっち・・・だと思う・・」
小春はゆっくりと東を指した。
「やはり森の中ですね・・・行きましょう」
確認するコヨーテの声を無視するように、ルイは走り出した。
皆もそれについて行くように一気に走り出した。
俺も後をついていく。
ルイが長い刀で辺りの邪魔な木々を切り刻んで行くため、かなり走りやすい道が続く。
すぐ横で、狼のスグローグが走りながら言って来た。
「確かにこっちの方角であっているな」
「ああ、何かの血の臭いがする。」
後ろを走っているダングが答える。
「血だと!?」
ルイが前を見たまま叫んだ。
「獣の血の臭いだ、人ではない。だが、そのせいで誰が襲われているのか、臭いが判別できない」
スグローグが悔しそうに答えた。
「小春、大丈夫ですか?」
少し前を走っているコヨーテが、隣の小春に声をかける。
小春は少しうなずいた。
後はただルイの背中を追いかけている。
「おい!!臭いが近くなったぞ!」
ズーン・・・
ダングの声と同時に、走っている方から何かが倒れるような音がした。
「この前に開けたところが見える・・・そこに何かいるぞ!」
ルイが言い終わってすぐその開けたところに全員が出た。
「!」
「おいおい・・」
ルイが声をだす。
その広場に出たとたんにものすごい数の獣の目が俺達を見つめているのに気付いた。
「ルイ!みんな〜」
その獣の中から声が聞こえる。
「コスモス!!!!」
ルイがその声に答える。
「みんな!!」
今度は男の子の声が聞こえた。
「ミネルもいますね」
コヨーテが言う。
「コスモスー無事かぁ!!!?」
ルイがさらに叫んだ。
「ルイ!僕も心配してよぉ〜」
向こう側にいる男の子がルイに叫ぶ。
どうやら体力は消耗しているが、怪我は無いようだ。
そうしている間に、獣だらけになっていた。
「レグナというイグアナの仲間ですね。
でも普通はこんなに集まらないし、攻撃的ではないのですが・・・」
コヨーテが獣の説明をする。
「おい、コスモスとミネルの前にいるあいつ、かなりでかいぞ!」
コヨーテの話の途中でダングが指を刺した先にはレグナの3倍はあると思われる大きな・・・。
「ガーゴイル・・・・・・・」
俺はゆっくりと刀を鞘から出しながら声に出す。
「ガーゴイル?そんな獣は聞いたこと無いですね」
コヨーテが聞き返す。
「当たり前だ。ガーゴイルは普通、大きな洞窟に生息している」
確かそうだった気がする。
ルイは刀をしっかりと持ち、構える。
スグローグはかなりの低い体勢になり、うなり始めた。
ダングはゆっくりと何度か手を振り爪が15センチぐらいに伸びてくるとにやりと笑った。
コヨーテは何本もある試験管をベルトから3・4本取り出している。
「いわゆる・・これは・・・・・・」
ルイが苦笑いをしている。
「いきなりのピンチってやつか!!!?」