BLUE SKYの神様へ〜忠誠の証〜


 「ゲホゲホッ・・・・・・」

 俺はむせながらふらふらと立ち上がり、戦車を見つめた。

 そこにはスグローグの姿はなく、敵の姿もない。

 「ス、スグローグ・・・・・・!」

 俺はゆっくり戦車へ歩きながら叫ぶ。

 「こっちだ!」

 スグローグの声はどうやら戦車の裏側から聞こえるようだ。

 俺は戦車に手をあて、体を支えた。

 そのまま戦車によかりながら裏へ回る。

 「どうだ?空を飛んだ感想は?」

 「あぁ?最高のフライトだったよ・・・・・・」

 「フライト?」

 「・・・・・・もうしたくないってこと」

 「そうか・・・・・・」

 この皮肉が分からないスグローグは淡々と言った。

 スグローグの体は戦車によかる様にして2本足で立っていた。

 前足は何かを押さえている。

 「やっぱり軍人か?」

 「みたいだ」

 俺の質問にスグローグは答え、そいつに唸り声を上げた。

 後ろ向きに押さえつけられているそいつは右手に弓を握っている。

 地面にヒザをつき、と息も荒い。

 俺は首を2、3度振り、吐き気を振り払う。

 そして、腰に挿していた刀を抜き、そいつの背中の前に立った。

 「どうしてこんなことをやった。

  何が目的だ!!」

 「・・・・・・・」

 「答えろ!」

 スグローグが叫びながら押さえるのを止め、後ろに下がる。

 俺はそいつの後頭部に刀の先を向けた。

 「正直に答えろ」

 俺の言葉に男は肩を震わせ怒鳴った。

 「忌々しい化け物に何故話さなければならない!」

 「貴様!」

 スグローグは牙を見せながら唸った。

 「スグローグ!」

 俺は今にも飛びかかろうとするスグローグを止めた。

 と、次の瞬間・・・俺の刀は手からはなれ、目の前にいた男の手に渡っていた。

 俺は突然の出来事で2,3歩後ろに下がる。

 男は刀を俺の首元に突きつけてきた。

 そしてゆっくり俺を見上げ、驚いた顔をした。

 「レイン!」

 スグローグが叫び男に飛びつこうとする。

 俺は飛びかかろうとするスグローグを右手で止めた。

 「貴様・・・・・・・!」

 男はそう叫び震えている。

 「お前・・・・・・・」

 どこかで見たことのある・・・・・・。

 男は灰色の髪に、オレンジの目を持っていた。

 そして・・・・・・。

 「右・・目・・・・」

 そいつは右目に白の眼帯をつけていた。

 「貴様、貴様、キサマ!!!!」

 男はそう言って俺を睨んだ。

 知っている・・・・・・こいつ。

 ザラードベイスに居た・・・・・・。

 「ザラードベイスの兵士・・・・・・・か」

 そう、見覚えのあるその顔はシラの護衛時代に見たことのある顔だった。

 『この前最神様を殺しに来たゲリラの三人が何者かに殺害されています。』

 「あの時の・・・・・・」

 俺は思い出したくない過去を追った。

 「そう・・・あの時はまだ俺はお前と同じザラードベイスにいた。あの、悪魔の襲撃までは」

 男は俺に刀を向けたまま言った。

 「『悪魔に見せられし神』・・・・・レイン。忌々しいビーストの元にいたか」

 「・・・・・・・」

 俺はその台詞に何も言えなかった。

 「俺の名は『グレイン』。フィール様の部隊にいた。」

 「・・・・・・!!!」

 「もう死んだと皆が言っていたが、やはり生きていたか。

  憎い・・・!!」

 俺はグレインと名乗った男の顔を見つめた。

 男は俺を睨み、刀を握り締めている。

 「どれほどお前をこの手で殺したかったか・・・・・・。

 全てを捧げたあのお方を殺したお前を!」

 「・・・・・・・」

 「知っているか?

  あの後のザラードベイスを。 あのお方の姿を。」

 俺はグレインの台詞と共にあの時の記憶を呼び起こしていた。

 「あのお方は・・・右目をえぐられて亡くなっていた」

 「・・・・・・」

 「貴様が!!」

 「俺は!!」

 「黙れ!!!」

 俺の言葉をグレインは防ぐ。

 「俺は誓った。この手で貴様を殺すと。

  そして、フィール様の成し遂げたかった未来の新創造をやり遂げる、と」

 「新創造?」

 「そう・・・その名誉を我々にではなく貴様に与えられた。

  フィール様の思い・・・貴様には分かるまい!!

  誓いを立ててた時、俺はフィール様の亡骸と共にこの左目を捧げた」

 そう言ってグレインは眼帯のしている左目を見せた。

 そいつの目にはまるで何かに無理やりつけられたような傷跡があった。

 俺と同じ・・・・ように。

 「お前・・・・・・」

 俺はそれしか声に出せなかった。

 「分かるか、この思い!」

 グレインの握る刀が太陽の光を浴びて輝いた。

 「やっと、誓いを・・・・・・敵を討てる。

  やっと・・・・・・」

 グレインは嬉しそうに笑った。

 こいつはずっとフィールを信じ、忠誠を誓っていたんだ・・・・・・。

 そして今も。たとえその人が悪魔・・・だったとしても。

 「なら、殺せばいいだろう」

 「レイン!」

 俺の言葉に、今まで黙っていたスグローグが吼えた。

 「何を言って!」

 「スグローグ・・・少し待ってもらえないか?これは俺の問題だ・・・・・・」

 俺がそう言うとスグローグは警戒しつつも押し黙った。

 だが、グレインが俺を殺したらきっと襲い掛かるだろう。

 「さあ、殺せ」

 俺の言葉に少し戸惑いながらグレインは刀を構えなおした。

 「いまさら何を躊躇している。ずっと思っているんだろう?フィールのことを。忠誠を誓ったのだろう?」

 「・・・・・・・・・」

 「さあ・・・・・」

 「・・・・・・・・・」

 睨むグレインを俺は見下ろした。

 でも、刀は俺の首筋にではなく、地面に突き刺さった。

 「・・・・・・・・・」

 グレインはゆっくり息を吸った。

 「俺の任務は、お前ら・・・・・・『天界に見捨てられし獣』シルメリアに単独で挑み、撃たれること」

 「どういう意味だ?」

 「敵軍に殺されろという意味だ!」

 「・・・・・・・!!!」

 俺とスグローグは息を呑んだ。

 「『戦争の火種となれ』それが今回の任務」

 グレインが淡々と言った。

 「シルメリアが小さな争いを起こし、軍人を殺したという事にして、軍から戦争を振りかけようという事か!!」

 スグローグが吼えた。

 「俺はシルメリアのビーストを殺さず、自らの命を絶てと・・・・・」

 グレインは表情を一切変えず言った。

 「何故そこまでして・・・いままでこんな攻め方してこなかったではないか!!?」

 スグローグが牙を出す。

 「それは俺も知らない。俺はただ命令に従うまで」

 そしてグレインは俺を睨んだ。

 「俺はフィール様に忠誠を誓っている。

 しかし、それと同じぐらい俺は軍にも忠誠を誓っている」

 そう言うとグレインはフッと笑った。

 「せっかく貴様を殺せると思ったのに・・・・」

 と急にグレインは動き、地面に突き刺した俺の刀を抜き、自らの胸に向けた。

 「『悪魔に見せられし神』・・・・・。

  我が命をもって起こす戦争の戦渦によって苦しめ!」

 そして・・・・・・ゆっくり・・・・。

 グレインの体は糸の切れたマリオネットのように力が抜け、俺のほうに倒れてくる。

 「グレイン!」

 俺は膝をつき、グレインの肩を支えた。

 手の平にべっとりと血がつく。

 息を詰まならせがらグレインが言葉を話す。

 「そして・・・・・レ、レイン・・・・・・・。

 運命・・・と、共に・・・・フィール様の成し遂げたかった未来の新創造を・・・な・・・・・・」

 「グレイン・・・・・・」

 俺は何も言えなかった。

 グレインはゆっくりと息を引き取った。

 「こいつも何かの運命に縛られていたのだろうか・・・・・・」

 俺はグレインの開いている左目をそっと押さえまぶたを下ろした。

 フィール・・・・・・。

 悪魔という事実を隠して五大神の地位に着き、人間だった俺を殺し、天使に変えた。

 そして、シラの能力を俺に植え付けようとした。

 俺に魔王の呪いをかけた・・・・・・。

 敵だと思っていた。

 だが、こいつにとっては違うのだ・・・・・・・。

 正しいと思っていた天界軍・・・・・・五大神。

 だが、今となっては戦争の敵・・・・・・。

 悪魔も俺にとっては敵であっても、フィールには正義と写っていた・・・・・・。

 敵とは何だ?

 何が正しくて、何が間違っている・・・・・・?

 それを決めるために戦争があるのだろうか。

 「レイン。戻ろう。報告しなくては」

 「ああ・・・・・・」

 俺はグレインをそっと地面に寝かせた。

 お前がもしこの左目を授かっていたなら、すんなり悪魔になったか?

 フィールの言う通りにしたのか?

 それが正しいと思ったのか?

 俺はスグローグに続いて歩き出した。

 「スグローグ・・・・・」

 「何だ?」

 「これから戦争になるのか?」

 「・・・・・・だろうな」

 「・・・・・・」

 「仕方がない。これが俺たちの生きる世界だ。

  俺たちが求める場所へ行き着く為の手段だ。

  例えそれが作られた世界でも。運命が生んだ舞台でも・・・・・。

  俺達が生きるている世界はそんな所なんだ」

 スグローグが振り返り俺を見つめた。

 「お前も・・・・・・そのうちの一人だろう?」

 「・・・・・!」

 「そんな目をしている。

  お前を見たときから思っていた。

  運命の舞台に立たされ、セリフを忘れた役者のよう。

  お前は何に怯えている?」

 「俺は・・・・・・」

 スグローグは俺を睨んだあと前を向き、再び歩き出した。

 俺は何も答えられず、後ろをついていく。

 「スグローグ・・・・・・」

 「・・・・・・?」

 「グレインとの話・・・聞かなかった事にしてくれないか?」

 「何の話だ?

  軍人が襲ってきて殺した。これから起こる戦争について聞いた。

  それだけだろう?後は何もなかった」

 「スグローグ・・・・・・」

 「早く知らせるぞ」

 「ああ・・・・・・・・・」

 俺は歩きながら後ろを振り返った。

 そこには小さくなっていく戦車が見えていた。

 ゆっくりと左目を開ける。

 『レ・・・レイン・・・魔王・・・陛下・・・あなたに忠誠を!』

  フィールの声が聞こえる。

 俺はこれから始まる戦争という名の舞台を、まだ知らなかった。







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