BLUE SKYの神様へ〜赤き目のドラゴン〜


「ありえない・・・・・」

 俺は膝と両手を地面につけて言った。

 「そうかな?結構昔の生活を再現して暮らしているんだけど・・・・・」

 ミネルの言葉に俺は大きなため息をついた。

 もうインペリアの散策を始めて半日。俺たちは昼食の鐘の音を聞いて、また朝いた広場に来ていた。

 そして俺はここでの奇妙な生活風景に疲れを感じていた。

 「おかしいだろ!」

 俺は疲れきって声がかすれた。

 おかしいの一言で片付けてはいけない・・・・・そんな気がした。

 確かに昔、古代の生活を再現しているところもある・・・・・。

 だが・・・・・。

 「何で?・・・・・何がおかしいの?」

 「何で・・・・・って」

 台所がコヨーテの研究所になってたり、洗濯機が酒樽になってたり、手術室がお茶室になってたり・・・・・。

 「もういい」

 俺はため息をついて、残っていたスープを飲み干すと立ち上がった。

 「あ・・・・・ちょ、ちょっと待って!」

 ミネルは急いで残りの料理を食べ後についてくる。

 「次はどこに行こうかな〜」

 「どこでも」

 俺は食器をサリエルに渡すと、中央に向かって歩き出した。

 「う〜ん。農場は見に行ったし、コヨーテの研究所にも行ったし・・・・・」

 「おう、ミネルのボウズ!」

 そう言われてミネルは突然現れた男を見る。

 「あ!カイホンのおじちゃん!」

 カイホンと呼ばれた男は地味な色のボロボロになった服を着ていて、髪もヒゲもボサボサだった。

 「どうしたの?こんなところに来るなんて珍しいね」

 「ああ、久しぶりにまともな食事がしたくなってのぉ」

 そしてカイホンは俺の方を見て目を丸くした。

 「ああ、この人は・・・・・」

 ミネルが俺を紹介しようとすると、カイホンが止めた。

「知ってるよ。もうインペリアじゃあ有名じゃ。わしの所まで話は来てる・・・・・。

 昨日の戦いはすごかったと聞いておりやす」

 カイホンは俺に深く頭を下げた。

 「あ・・・・・いや・・・・・」

 「こちらの方に来たのはダンナにも用があった為で。

 いや、まさかこんなにあっさりとお目にかかれるなんて」

 「俺に用?」

 「へえ、一緒に来ていただきます。

 さあ、こちらに」

 そう言ってカイホンは前を歩き出した。

 「・・・・・・・・・・」

 俺は仕方なく後をついていく。

 さらに後をミネルがついてくる。

 「ちぇ。レイン君が7班だからって言葉使いまで変えて」

 「こいつは?」

 「カイホンのおじさんは7班直属の・・・・・」

 「さあ着いた」

 ミネルの言葉を遮るようにカイホンが言った。

 そこは区域の離れた田畑の真ん中にあり、これまたボロボロの大きな建物だった。

 「ささ、中へ」

 言われるままに中に入る。

 中は獣の匂いと叫び声が響く・・・・・

 だだっぴろい小屋の中にはたくさんの生き物が集まっていた。

 「ささ、この中からお選びください」

 「え、選ぶって」

 「レイン君の乗る獣だよ」

 「乗る?」

 「おじさんは戦闘の時の馬を育てる調教師なんだ」

 ミネルが嬉しそうに、そして俺を羨ましそうに言った。

 「ダンナは7班になられた。昨日長から連絡が入りやして」

 「ライが・・・・・」

 「へえ、選ばせてやってくれと」

 俺は柵の中に入っている獣を一匹ずつ見て回る。

 「選べと・・・・・ねえ」

 ライは完全に俺を戦力としてこれから戦っていくつもりらしい。

 あいつのニヤケ顔が頭をよぎった。

 俺を信用しているみたいだ。

 俺はただ利用しているだけなのに・・・・・。

 鳥・馬・竜・・・・・

 「7班の者はみんな持つものなのか?」

 「いえ、それぞれです」

 俺の答えにカイホンはすばやく答える。

 「長は麒麟に、オギロッドのダンナは馬に、ルイの坊ちゃんはドラゴン、コヨーテ先生は乗り物はお嫌いだそうで何も・・・・・」

 「いいな〜僕も欲しいな〜」

 「ボウズが7班になるのは、まだまだ先の話だ」

 「ふんだ。絶対7班になってやる」

 そんなカイホンとミネルの言葉を聞きながら俺はある所で止まった。

 「ドラゴン・・・・・」

 ドス黒い緑色のうろこ。銀色に光る牙と爪。そして俺に似た・・・

 「赤い目・・・・・」

 そいつは俺の方に近づいてくる。

 「あ、気ぃつけてくだせぇ。そいつは気が荒くて・・・・・」

 だがカイホンの声の前に俺はそいつに手が触れていた。

 そいつは俺が頭をなでると気持ちよさそうに目を細めた。

 「・・・・・こりゃあ驚いた」

 カイホンが言った。

 驚いたのは俺の方だ。

 こいつは俺がザラードベイスで戦ったドラゴンにそっくりだった。

 「そいつは、シクスは悪魔の砂人形のデザインにされているといいます。」

 「シクス・・・・・」

 俺は二人に自分の顔が見えないのを承知で左目をゆっくりと開けた。シクスは同じ赤い目で俺を見つめてきた。

「なるほど・・・・・な」

 「・・・・・?」

 カイホンとミネルは同時に首をかしげた。

 「カイホン」

 「へい」

 「こいつにする」

 「へい!」

 シクスは嬉しそうにグルルと唸った。

 

 

 

 

 

 「いいな〜」

 「まだ言ってんのか?」

 「だって〜」

 ミネルは俺のすぐ前を歩きながらさっきの出来事を今だにぶつぶつしつこく言っている。

 「で、次はどこに行くんだ?」

 俺は早くこの状況を直すため話を変えた。

 「え〜っとね〜。僕の秘密基地」

 ミネルはすんなり俺の作戦に乗って話を変えた。

 「秘密基地?」

 「そう!」

 ミネルは嬉しそうに俺の方を向いて笑うと、早足で歩きだした。

 俺も後をついていく。

 辺りにはのどかな風景が広がっている。

洗濯物を取り込む女の人や、仕事を終えた人々の話し声。食料探しの班が獲物を調理場に持っていく姿。こんな和んだ雰囲気がいつ戦争が始まってもおかしくない状況だとは誰も思うまい。

 「ほら、こっち」

 ミネルの指差した方向は街角の路地よりも狭いと思う遺跡と遺跡の間だった。

 「ここに入って」

 「ここに?」

 俺は路地をのぞく。

 路地は目の前で急に階段になっていて、下のほうは何も見えない暗闇だった。

 「そう」

 そうミネルの声が聞こえたと思ったら俺の体は宙に浮いていた。

 「うわぁぁぁ〜」

 ドスン・・・・・・・・・・

 大きな衝撃音とともに俺の体は痛みを感じた。

 「いっつ・・・・・」

 俺は腰を押さえながら辺りを見回す。

 「ここは?」

 真っ暗で何も見えない・・・・・

 「ごめーん」

 ミネルが急いで後ろの階段から降りてくる。

 「ごめん!まさかそんなコケ方するとは・・・・・」

 「あんな体勢で後ろから押されれば誰だってそうなる!」

 「レイン君はすごく運動神経いいから大丈夫だと思って・・・・・」

 ミネルはそう言いながら暗闇の中へ消えていった。

 「おい!」

 俺が後を追おうと思ったその時。

 「!」

 一気に眩しい光が辺りを照らした。

 俺は思わず手をかざし、光に慣れていない目を覆った。

 そっと手を下ろすとそこは・・・・・

 「な・・・・・」

 俺は自分の目を疑った。

 「まさか・・・・・」

 「えへへ。僕の秘密基地」

 ミネルが嬉しそうに言った。

 そこは広い部屋。鉄パイプや電線コードの入り組んだ壁。

 そして真ん中には山積みにされたダンボールとその中に眠る・・・・・。

 「拳銃・・・・・」

 「うん!」

 「まさか!」

 「本当にびっくりしたよ、僕も」

 ミネルは部屋の中をゆっくりと歩き出した。

 「ここは地下の部分に当たるからデンキがまだ通じてるんだって!」

 俺はただその光景を隅で見ていた。

 「最初はこれが何だか分かんなくってアグニスや遺跡の発掘担当の3班の人に頼んで研究してもらったんだ。

 そしたらこれ、昔の人間が使っていたケンジュウっていう武器だったんだ。もうびっくりで・・・・・

 ライの許可をもらってこの武器の使い方の研究をしてるんだ」

 俺はミネルの胸に拳銃が入っているのを知っていた。

実際その拳銃で俺は助かったのだし。古代の人間の技術でそれぐらい出来ていたというのも何となく解っていた。ここがその最先端の研究所があった町の遺跡だということもふまえて。

 「もうほとんどマスターしたんだ。名前も分かるし、玉の種類も分かりやすくまとめた本が発掘されてて・・・」

せいぜい発掘しても4・5個だと思っていた。

 「まさかこっちの世界にもこんなに残っているなんて・・・・・」

 「?・・・・・こっち?」

 俺はミネルの横まで歩いていき、そっと傍にあった拳銃に手を触れた。

 「ねえ、どうしてレイン君はこの武器がケンジュウっていう名前だって知ってたの?」

 「・・・・・んん・・・・・・・・・・」

 俺は反応できなかった。

 俺は拳銃を箱から取り出しゆっくりと構える。

 「構えまで知ってるの?」

 知ってるも何も、俺はこの武器を使う世界から来たんだ。

 「重い・・・・・」

 俺は人間だった時、よく友達と拳銃のエアガン・・・・・いわゆるおもちゃを集めていた。

知識もかなりのものだったが、すぐに飽きてしまいずっと机の引き出しに入っていると思う。

 やはり本物だ、重さがおもちゃに比べて比較にならないほど重い。

 「あのね・・・・・本の話だと腕を張ったまま撃ったら肩が壊れるらし・・・・・」

 ダンッ!

 「ちょ・・・・・ちょっと、レイン君!」

 俺はミネルの話の間に壁に向かって引き金を引いていた。

 すごい衝撃が走る。本当にちゃんと知識がなければ肩がいかれそうだ。腕にしびれを感じる。

 「すご・・・・・!」

 「急に撃たないでよ!」

 ミネルは心臓を押さえて言った。

「あ・・・・・ああ」

 「でもすごい!撃つ時の構えも、撃った時の動きも完璧に近い!」

 「そりゃどうも・・・・・・・・・・」

 俺は拳銃をそっと元の場所に戻した。

 「何で、何で?」

 ミネルが興味津々に聞いてくる。

 とにかく、何故ミネルが拳銃なんか持っていたのかはよく分かった。

 「何で知ってんの?」

 「さあな・・・・・・」

 「またそうやって隠す〜」

 俺はもと来た道を引き返そうと思った。

 「あ!そっちじゃなくてこっち!」

 ミネルが叫ぶ。

 俺は後ろを振り向くと、まだその先には部屋があるようだ。

 「ここは普段立ち入り禁止なんだけど、一応あの子もシルメリアにいるし、自己紹介して行こうっと!」

 「誰かいるのか?」

 「ん?・・・・・・まあね」

 ミネルはあいまいな返事をした。

 「・・・・・・?」

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