BLUE SKYの神様へ〜朝食の恐怖〜
目覚ましの正体を拝見してから少し経って、俺は1番に食事にありつくことが出来た。
「ボウズ、たぁんと食いな!俺たちの料理はシルメリア1だぜ」
そう言ってひげの濃い丸々とした厨房長が渡してきたお盆には、何もかもが山盛りにつがれていた。
朝からそんなに食えないが、それを厨房長に言えばどうなるか分かったもんじゃないため、後でサリエルに減らしてもらった。
パラパラとおいしい匂いにつられて人々が外に出てくるが、その中で二日酔いの証でもある「くま」を作っている人は少なくなかった。
「おはよう」
切り株に座っていた俺に、後ろから声がかかる。
「ああ、おはよう」
そこにいたのはお盆を持ったミネルだった。
「良く眠れた?」
「・・・・?何でそんな事聞く?」
「いや・・・・昨日の話気にしてるかなって」
「ああ・・・・・・大丈夫。よく寝れた」
「良かった」
ミネルは眼鏡を上げながらそう言った。
「隣・・・良い?」
「ああ・・・」
ミネルが座り、俺が半分まで食べかけた料理に手をつけようとしたその時。
「おはようございま〜す!救世主様!」
その声とともに俺の首はギュウッと後ろから締められる。
「救世主様と同じ区域だなんて、コスモス感激です!」
「く・・・・・くる・・・」
「へえ?何か言いました?」
「く・・・苦し・・・・」
俺は苦しさのあまりもがいた。
「コスモス・・・・そのままじゃレイン君、死んじゃうよ」
「え?え?ああ・・・・ごめんなさい」
ミネルの言葉で、俺の首からコスモスの腕が離れる。
「レイン君、大丈夫?」
「三途の川が一瞬見えた」
「ごめんなさーい」
コスモスは掌を合わせて謝ったが、本当にそう思っているのか?
「い・・・・いや・・・・良い」
俺は首筋をなでた。
「コスモス。ご飯とってきたら?もうなくなるよ」
「うん」
ミネルの言葉でコスモスはスキップをしながら食事を取りに言った。
「参った・・・・・・」
「本当災難だね・・・・・。コスモスに狙われたらおしまいだね」
「やめてくれ。また三途の川が見えそうだ・・・・」
「悪気はないんだけどね。ただ・・・・・」
「・・・・・?ただ?」
「さっきの光景をルイが見てたら・・・・・」
「俺が何だって?」
「「わぁ!」」
急なルイの登場に俺とミネルは思わず声を上げた。
「や、やめてくれ〜」
その声に急にルイがしゃがみ込み、頭を抱えた。
「どうした?」
俺の質問にルイは睨み、答えない。
「その・・・・・くま・・・・」
「ルイ・・・・・もしかして・・・・二日酔い!?」
「うおおお・・・・ミネル、叫ぶな!」
「あ・・・・・ごめん・・・・・」
「図星だな・・・・・」
俺はついつい笑ってしまった。
「お前!今笑っ・・・・・・」
ルイが俺を指差して叫んだが、頭を抱えて言葉を止めた。
「ルイが二日酔いなんて珍しいね」
「こいつが・・・あの酒を飲んでいるとコヨーテから聞いて・・・・それで・・・・・」
「あの酒を飲んだんだ・・・・」
ミネルと俺は哀れむようにルイを見た。
「何で貴様は・・・・」
「ああ・・・・・俺?」
「あれを飲んだのではないのか!」
「飲んだが・・・・薄くないか?あの酒」
「何ぃ!・・・・・っ」
俺の言葉にまたルイは叫び、そしてまた頭を抱えた。
「ルイ・・・・レイン君、にはかなわないと思うよ・・・」
「・・・・・は?」
「だってレイン君結局あの酒のビン丸々飲んだんだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
ミネルの言葉を聞いて、ルイは力つきた。
「そうだ!今日はどこから散策する?」
「・・・・・?」
ミネルの突然の話に俺は少し驚いた。
「ええ!忘れてないよね?今日インペリアの案内するって言ったじゃん」
「ああ・・・・・・・・そうだった」
「ご飯食べてから早速行こうね」
「ああ・・・・・・・・」
「ミネル・・・・・・・こいつを信用するな・・・・・」
頭を抱えたルイが話に乱入してくる。
「何で?」
「何でって・・・・・こいつは・・・・・・・・・」
「こいつは愛しのコスモスを奪ったから?」
「!」
ミネルの言葉に、俺は思わず切り株からすべり落ちる所だった。
ルイはミネルの声に頭を抱えた。
「ミネル・・・・・俺はコスモスなんて・・・・・」
「大丈夫。レイン君はもう仲間でしょ。もう僕の友達だもん」
俺の話を遮って、ミネルはルイに強い口調で言った。
「ルイはいつも人の事信用しないんだから。仲間になったんだから仲良くしなよ」
「わ・・・分かった・・・・分かったから・・・・・・」
ルイはミネルの言葉にますます頭を抱える。
「幹部の人だけが信用できる仲間じゃないんだよ。シルメリアの長の弟ならもっとみんなを信用してよね!
それにコスモスのこと好きならコスモスが好きになる人にちょっかい出さずに奪いとるぐらいしないと振り向いてくれないよ!」
「分かった・・・だからもう大きな声で・・・話す・・・・な」
どう見てもミネルの圧勝だった。
最後の方はどうかと思うが・・・・・・。
「うううう・・・・・」
ルイは青い顔をして食事を取りに行こうとしてサリエルを見つけた。
「サリエル・・・」
「はい!おはようございます、ルイさん。
・・・・・顔色が良くないですよ。いつも元気なのに」
「いや・・・・そんなことより今日の鐘の音は何かいつもよりでかくなかったか?」
「あ・・・・ええっと・・・そうでしたか?」
サリエルは目を泳がせて、しまいには俺と目が合い「しまった」という顔をした。
「いつもと変わらなかったと・・・・思いますよ」
まさか焦っていたとは言えないらしい。時計が時間を狂わせてはいけないように、あの儀式は時間ぴったりでないといけないらしい。
「俺もいつもと変わらなかったと思うぞ」
俺はサリエルの言葉に付け加えた。
「なら良いが・・・もう少し品よく叩いてくれ」
「はい」
ルイは判断能力も衰えたのか、俺が今日以外の鐘の音を聞いていないことにも気づかずふらふらと去っていった。
「完全にあれは『二日酔いだったから鐘の音が頭に響いた』と言いたかったみたいだね」
「ああ・・・・」
ミネルの言葉に、俺は少し笑った。
サリエルはルイの後ろ姿を心配そうに見つめた後、俺に一礼して調理場に走っていった。
「何かあったの?」
「いや・・・・・」
俺はまた少し笑った。
それから俺の笑い顔はコスモスの登場により、再び苦しみの顔になるのはまたそれからの話だった。