BLUE SKYの神様へ〜肩の負傷〜
「いや〜、ご苦労!」
ボロボロになった俺達をライは澄み切った笑顔で迎えた。
「大変だったろう?でもみんな無事に帰ってきて、良かった良かった」
「こっっっのクソ兄貴!」
ルイがその笑顔に激怒した。
「この状況で、よくもまあそんな顔で良かっただと!」
皆あちこちを火傷や切り傷を負っていたし、俺はガーゴイルの毒にやられて、コヨーテの肩を借りてやっと歩けるぐらいだった。
毒は幸い小春の応急処置のおかげでどうにか中和したが、まだ体にしびれが残っている。
「あははは〜」
ムカつきマークのついたルイの拳を笑いながらヒラリと交わし今度は真剣な顔で俺たちを見つめて言った。
「本当に無事で良かった」
ルイは拳をピタリと止め、兄貴の顔を見る。そして俺たちの方を見る。
「兄貴・・・本当にそう思ってるのか?」
ルイはこぶしを振るわせた。
すると、ライの顔がまた緩んだ。
そして俺はライが見ていたものが何かを知った。。
それはスグローグとダングが運んできた、レグナの肉だった。
レグナは食べられるらしいので、少しが運んで帰ってきたのだ。
「どうせそんな事だろうと思った・・・。クソ兄貴が〜っ!!!」
ルイが放つ拳の連打を、ライはすべてひらりとかわしている。
「とにかく本当にみんな無事で何より」
ライとルイの光景を見ていないようにアグニスが言った。
「スグローグ、ダング。その肉を調理班の所に。コヨーテもお願い。レインあなたはすぐ治療班の所に行きなさい。完全に完治しなかったらこのまま後遺症が起こるかもしれないから。小春頼むわね」
「じゃあ、私も行く!」
コスモスが手を上げて叫んだ。その声に小春がビクッとする。
「コスモスは治療班ではないでしょう」
「でも私を助けてくれた救世主様ですもの。お礼がしたいの」
「きゅ・・・救世主!!?」
俺は驚き、コスモスを見た。
「そうです。絶体絶命の私を、危険もかえりみず助けに来てくれた・・・。まさに私の救世主様です。運命の・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
コスモスは手を合わせ、空中を見つめた。
俺は開いた口が塞がらない。
「また始まった・・・」
肩を貸してくれているコヨーテが俺に耳打ちした。
「コスモスはすぐに運命だとかなんだとかってに決めつけてしまうのが好きでして・・・。私もこの間そんなことで四六時中捕まりました。そしてそれに毎回振り回されているのが・・・」
そう言ってコヨーテはライの隣にいるルイを見た。
そのルイはコスモスをポカンと見つめていたが、俺と目が合った途端に後ろに炎が燃え上がっていると錯覚してもいいぐらいに睨んできた。
「さあ、行きましょう。救世主さま!」
俺の手をギュッと握ってコスモスが言った。
ルイの炎がますます燃え上がる。
「これからが思いやられますね」
コヨーテが苦笑いをして言った。
ライを見ると面白そうに俺を見ている。
俺は首を垂らした。
「・・・・・・・・・・・・はあ」
俺が連れて来られたのは、昔ここにいた人間が作ったのであろう大きな医療施設の部屋だった。
部屋の中にはそんなに損傷はないがやはり大昔の遺跡だけあって入り口のドアが無く、代わりに布が垂れ下がっている。
壁のコーティングも所々はがれている。
ベッドが何台かあり、隅にある棚にはたくさんの薬や包帯が整理されていた。
「少し待ってて下さい。すぐにマルフィスさんが来ますから」
そう言ってコスモスは、俺を一番近くにあったベッドに座らせた。
「ッ・・・・・」
「い・・・・・痛みますか?」
苦い顔をした俺に小春は恐る恐る言った。
「まだ、少しな・・・・・」
毒にやられてすぐに小春が薬草を探してきて応急処置をしてくれなかったらと思うと少しぞっとした。
「すまない・・・・・遅くなった」
そう言って入り口の布をはぐり、入ってきたのは長い黒髪の女の人だった。
その女の人は髪を後ろでくくり、かんざしを挿している。
そして普通より長い紫の着物を着ていた。
「お前が新人のレインだな。第5、治療班の長を務めているマルフィスだ」
そう言ってマルフィスは俺の前にある椅子に座った。
その後ろに続いて入ってきた女の子に俺は目がいった。
「そしてこいつは」
「サリエルです」
サリエルはにっこりと笑って言った。
灰色のショートヘアーでオレンジの服を着ている。
「レイン肩を見せな。サリエルは消毒液と包帯。小春は生気を送りな」
サリエルは言われたとおり消毒液と包帯を棚から取り出しマルフィスのところに持ってくる。
小春は俺の右手を握り、ギュッと目をつぶった。すると少しずつ俺の体に生気が入ってくる。
「変わった治療法だろう。能力の力を借りて負傷者の生命力を高め、完治を早くする。
完全に治すことは出来ないがな。
古代の人間が研究していたようだ。この遺跡にたくさんの資料が残されている。
ここの者しか知らない治療法だ。
さあ早く見せろ」
「あ、ああ・・」
俺はマルフィスに言われて右肩を見せるように向きを代えて座った。そしてボロボロにただれた服を少し剥がした。
「うわ〜痛そ〜」
コスモスが覗き込んで言った。
痛いとかそんなレベルでは無いのだが・・・・。
「かなり腫れてるな・・・・皮膚がただれて変色している。こんな状態なのによく気絶せずにいられるな。小春の応急処置があったとしても普通ならもうあの世だぞ」
マルフィスはそう言って俺の肩の上に手を当てた。
すると何だか少しずつ痛みが引いていく。
「すご〜い、どんどん肌の色が治っていく〜」
コスモスが歓声を上げた。
少しの間その状態が続き、その後にかなりしみる消毒液をありったけ塗りたくられた。
「サリエル、あんたはもう調理班に向かいな」
「もうそんな時間ですか?でも・・・・」
「後は包帯だけだから大丈夫だ」
「・・・・分かりました」
そう言ってサリエルは後ろを向いて部屋を後にした。
「・・・・・!」
サリエルの背中を見て俺は驚いた。
「黒の羽・・・・」
それは確かに天使の羽なのに色は漆黒だった。
「ああ・・・・そこは聞かないであげてくれ」
マルフィスは俺の独り言に答えながら包帯を巻き終えた。
そして、壁にかけてある新しいグレーの上着を俺に渡してきた。
俺はその上着を羽織る。
「ここの奴はみんな何か事情がある者が集まってる。お前もその一人だろう、レイン」
突然、マルフィスが聞いてくる。
「え・・・・・いや・・・・・」
俺は一瞬、ヒヤッとした。
俺が戸惑っているとマルフィスは俺に笑いかけた。
「ほら、終わりだ。後は少しの間安静にしていることだ。小春に感謝するんだな」
マルフィスの言葉に小春は顔を赤らめ下を向いた。
「ああ・・・・小春には本当、感謝している」
俺がそう言うと、小春はますます縮こまった。
「・・・・私もあの時、助けてくれて・・・・あ、ありがとうござ・・・・」
カンカン・・・・・
小春の言葉をかき消すように、外から大きな音が聞こえる。
「夕食の用意ができたようだ」
マルフィスは立ち上がると、外に向かった。
「やった〜ご飯、ご飯!コスモスもうお腹ぺこぺこ〜」
コスモスが喜びの声を上げて、俺の手を引いた。
「行きましょ、救世主様」
俺はコスモスの手に引かれるままに部屋を後にしようとした。
後ろを振り返ると、小春はまだ同じところにたたずんでいた。
「小春、行くぞ」
小春にそう声をかけると、一瞬ビクッとしたがすぐに頬を赤くし笑みをこぼした。
「はい・・・・・」