BLUE SKYの神様へ〜目的の彼方〜
夕日が沈みかけ、空には無数の星たちが輝きを増していた。
遺跡の真ん中には大きな広場がある。
その真ん中では天まで届きそうな炎が舞い、あたりを照らしていた。その周りで大勢の人達が夕食を楽しんでいた。
俺が外に出てすぐ目にしたのは、俺の背丈の4・5倍ある、山のようなレグナの死体・・・いや、食料だった。
すでにコスモスと小春は食をしている皆のところに行ったが、俺はこの光景に目を奪われ呆気にとられていた。
「すごいだろう。わし達が倒したレグナのほとんどだ。あの後すぐにとりに行ったんだ」
その声に振り向くと、スグローグが立っていた。
「傷の具合は?」
「ああ、何とかな」
あっけない俺の答えをフッと鼻で笑いスグローグは後ろを向いて歩き出した。
「来い!ライがお呼びだ」
俺はスグローグの後ろをついていく。
辺りは祭りのような騒ぎで、皆が笑顔で食事をしている。
その光景を見ていた俺は、あることに気付いた。
「なあ・・・ライはこのインペリアには3百人しかいないと言ったが・・・」
そう、明らかに人数が多いのだ。
しかも老人や子供、明らかに人間の形をしていない獣の姿。
それに体の一部が変化しているものも少なくない。
「ああ・・・ここにいるものは5百人だよ。一区域に5百人。それが四区域。インペリアは合計で2千人。
その中で戦闘経験があるものが3百人だ」
スグローグは前を向いたままそう言った。
「シルメリアは軍ではない。その為、子供や年寄りといった戦闘に出れない者の方が多いのだよ。それにワシみたいなビーストも多い」
「ビースト?」
俺は聞き覚えのない言葉を声に出す。
「ああ。
古代の時代に人間達が出した汚染廃棄物のせいで生まれた半獣人だ。
ここはそんな何かと事情がある者が多いのだ」
そう言えばさっきもマルフィスにそんなことを言われた。
「ほれ、着いた」
スグローグの歩く先には、他よりも新しい建物が建っていた。
屋根もちゃんとついているし、壁も壊れていない。
だが、やはり入り口にはドアではなく布が垂れていた。
その建物の横には、今にも崩れそうな骨組みの監視塔がそびえ立っている。
どうしてこんなひょろいのに、バランスが保っていられるのか不思議だ。
「何をやっておる。入れ入れ」
立ち止まりその監視塔を眺めていると、スグローグに呼ばれ急いで中に入る。
そこには大きな机が真ん中を陣取り、その周りに椅子が机を取り込んでいるように置いてある。
前には黒板が壁に取り付けてあり、壁には何かのメモがいくつも貼ってある。
ロウソクが何本も壁にかけていて、意外と明るい。
「お、来た来た」
ライが黒板の真ん前に座っていた。
その隣にアグニス。
もう反対はルイが不機嫌な顔をして座っている。
その横にコヨーテがいて、スグローグが机の端に前足をかけてこちらを見ていた。
他に何人か見たこともない男が、俺を睨むようにじろじろと目を向けてくる。
「まあ座れ」
ライの声に、俺は目の前にある椅子に座った。
「何の話し合いだ?」
「お前の事だ」
「・・・・俺の?」
俺の言葉にライはにやりと笑みを浮かべた。
「このシルメリアのインペリア遺跡は見ての通りたくさんのものがここで暮らしている。だからそれぞれの役割、責任をきちんと決めているんだ。その役決めだよ」
「一応言うが、俺はまだお前に入ると言っていないのだが?」
「お前!」
その言葉にルイがくってかかる。
「ほお・・・・で答えは?」
ルイの声が聞こえていないように振舞って、ライが聞いてくる。
「軍のスパイだか何だかの疑いが晴れて・・・」
「その事は問題ない」
ライが俺の言葉を遮り言った。
「お前の今日の働きは、皆が知っている。
スパイならコスモスやミネル達を命懸けで守ることなんてできないからな」
そう言ってライは笑った。
「・・・はあ」
俺は大きくため息をつく。
「・・・ここまで乗った船だ。入ろう」
ここで軍の情報を聞くことが出来るかもしれない。俺はふとそう思った。
ライとコヨーテはお互い顔を合わせ、やはりなという笑みをこぼした。
ルイはますます不機嫌になる。やはりあいつには信用されていないのか・・・それともただ単に嫌われているのか。
「そういうことだ。話し合いを始めようか」
ライはアグニスに言うと、アグニスは持っていたプリントに目をやり、話し合いの結果をメモする準備をした。
「何かと情報が欲しい。生まれ故郷と何でここに来たかをはっきり聞いておきたいのだが?」
ライが机に左ひじをついて言った。
どちらも難しい質問をされ、俺は一気にうろたえた。
「悪いが生まれはどこか分からない」
俺はそのままうろたえた事を表に出さないように嘘をつく。
「いつの間にやらってやつだ。ここに来た理由は・・・・一度言ったが?」
「お前、それでは何も答えてないのと変わらん!ちゃんと説明しろ!」
ルイが叫ぶ。
「目的の為・・・とあの時は言ったな。その目的とは?」
ライの問いに少し迷ったが、言える程度に答えた。
「ある人を救う為に・・・」
俺は睨むように、辺りを見回した。
みんなが一瞬俺の顔を見て、息を飲んでいるように見えた。
「そうか・・・」
ライはそうゆっくりと言う。
質問を諦めたようだ。
「アニキ!」
ルイがライに叫ぶ。
「あんな回答で信用するのか?」
「これ以上、何を話せと?」
「何って・・・こいつは何も語っていない!」
「確かに・・・」
ライが俺の顔を見る。俺は顔色一つ変えず座っていた。
「いつか・・・」
「・・・は?」
ルイが不思議な声をだす。
「いつか話してもらえるだろう・・・今はまだいえないんだろう」
「そんな簡単に終わらせ・・・」
「お前は!」
ルイのしつこさに少し声を強めライが叫んだ。
「お前はここに集まってくる者はどんな奴らか知っているだろう!!
・・・こいつもその一人なんだ」
「・・・・・・・・・・」
そこまで言われ、ルイは口を閉じた。
ライはルイが静かに腰を下ろしたのを見て、俺に話しかけてきた。
「いつか話してくれるだろう?」
「さあな・・・その時が来たらの話だ」
俺は曖昧な答えを返した。
その答えに満足したのか、ライの顔が緩む。
「で、・・・だ。お前の役決めだが・・・」
「それは私から」
そう言ってアグニスが話始めた。
「ここインペリアには約2千人がいる。
その2千人は4区域に分かれて生活し、それぞれ自分の役割に沿って仕事を担当してる。
1班から9班は4区域混合により結成され、残りは各区域で結成されているわ」
「なるほど。その役割は何種類あるんだ?」
「三十二班よ」
「はあ!?」
俺の質問にアグニスはすんなり答えてしまい、俺はその数に驚いた。
「そんなにもあるのか!?」
「ええ。かなり細かくなっているから。そこからまたどんな仕事に就くのかを決定するようになっていの。
ちなみに私が第1班長、情報整理や情報の監視を受け持っている。
コヨーテが第8班長、戦闘に用いる武器の開発や能力の研究をしている。
スグローグが9班長、情報収集を担当しているわ。
その頂点に立っているのがシルメリア長、ライよ」
「ほ〜・・・」
俺は素で関心した。
「で、俺に何をしろと?」
俺はライを見た。ライはニヤニヤと人の顔を見てくる。
「何か俺にやらせたいことがあるのだろう?」
俺は嫌そうに言った。
「ご名答!」
ライは人差し指を一本立てた。
「お前には第6班及び第7班に所属してもらいたい」
「で?その仕事は?」
「それは・・・」
「インペリア全域の警備、及び戦闘を受け持つ」
突然ルイの横に座っている男が話に入ってきた。
「つまり戦争時の戦力となるものだ。まあ、本当に戦えるのは7班の者だがな」
そう言ってそいつは席を立ち、俺のところまで来ると手を差し出した。
「第6班及び第7班、長のオギロッドと言う者だ」
「あ・・・ああ」
俺はそいつに何か違和感を感じた。
俺は立ち上がりくすんだ青色の髪で背の高い男の手を握る。
「!!!」
手を握ってみて、その違和感がやっと分かった。
そいつの着ている物だ!
オギロッドの着ているのは紺色の・・・・・・
「軍服・・・」
その言葉に、部屋にいた者が一瞬固まる。
確かにオギロッドが着ているのは軍服だった。
少し色あせているが、紺色である。
今の軍服は黒。ということは・・・
俺が睨む様にオギロッドを見ていると、ライが声をかけてきた。
「こいつは元軍人だ。だが今は信頼できる人材なんだ」
「元軍人・・・なら20年前からここにいたのか」
俺の問いに少し驚いた様子だったが、オギロッドはうなずいた。
「その通り。何故分かった?」
俺は自分の席に座るとその質問に答えた。
「今の軍服は黒。戦前は紺。それだけだ。紺ならば戦前もしくは戦争中に軍を抜け出したことになる。それにルイの戦闘スタイル。あれは戦前に開発された軍の構え方だ。あんたが教えたんだろう?」
「ほお・・・若の言うとおり、こいつはいい人材だ。瞬時にここまで把握している。我が若かりし頃にそっくりだ」
オギロッドはそう言ってライを見た。
ライは満足そうに笑った。
「そうだろう。それに外の世界を俺達より見ている。何か役に立つ情報を持っているかもしれないしな。
さあ、今日の会議はここまでにしよう!」
その言葉で部屋にいた者が外に移動し始めた。
「レインこれからは我々に力を貸してくれ」
「・・・」
オギロッドはそういうと外に出て行った。
ほとんどの者が外に出た後、俺も入り口に向かって歩き出す。
「レイン」
「?」
突然ライに呼び止められ、俺は首だけ後ろに振りかえった。
「最後に聞いておきたいことがある」
「・・・・・・・・・・?」
ライはまだ動かずさっきの席に座っていた。
先ほどまでの緩んだ顔は消え、代わりに何かを見据えるシルメリアの長の顔になっていた。
「お前は1度でも人の死を目の当たりにした事があるか?」
可笑しな質問に面食らったが、俺は体をライに向けて言った。
「ああ・・・・・何度もな」
ライはその言葉が返ってくるのを待っていたかのように言った。
「・・・・・・やはりな」