BLUE SKYの神様へ〜時と時の狭間に〜


 

見つめられた瞳はこの青空のようにどこまでも澄んでいて

 君の心の中も見えそうで・・

 

 心の中にある影に少しの光をあげたくて…

 不安の霧に暖かな風を送りたくて・・

 悲しみの氷を清らかな水で溶かしたくて・・

 

 どうか…少しでもいいから信じてほしい

 どうか…この心を信じてほしい

 

 

 

 

昼下がりの庭に暖かな風が吹いていた。

美しく彩られた木々達や花々に目をやることもなく俺は芝生の真ん中に座りただ手の平を見つめるだけだった。

「・・・」

「・・・」

「できな〜い」

俺はだれ〜と芝生に寝ころんだ。それを見て後ろのベンチに座っているシラがクスクスと笑った。

「何だよ〜」

シラは笑うのを必死にこらえて持っていた分厚い本に目をやり、目の前に垂れ下がった青い髪を後ろにやった。

俺は、少しずつだが能力を勉強しようと努力している所である。

能力を教えてくれるとまでは言っていないが、あれからシラは独学で覚えようとしている俺のそばにいてくれるし、話もかなりと言っていいほどしてくれるようになった。

まあ、会話とまではいかず、俺の言葉を繰り返したり、うなずく程度だが。

めったに使わない頭を使って分厚い本に挑む。人間界にいた時は思いもしなかった。もしこの仕事を受けなかったらどうなっていたのかと時々思うことがある。

勉強し始めたものの、どんなに頑張っても簡単な能力もまったく使えない俺は半ば投げやりで本のページをめくっていた。

「で〜き〜な〜い〜。『風の起こし方』ってどこに書いて あるんだよ〜」

俺はダ〜っと頭をかいて本を投げ出した。シラはその本を拾い上げ折曲がってしまったページを直しながら俺の所に持ってきた。

そのまま俺の横に座り本を渡してきた。

「326ページ」

「は?」

「326ページ・・・・・」

「『風の起こし方』が?」

「『風の起こし方』が・・」

「マジで?」

シラは俺と目を合わせるとコクンとうなずいた。

言われた通りに326ページを開くと大きな見出しには確かに『風の起こし方』と書いてあった。

シラの顔を見ると、ほら見ろといわんばかりの笑みをこちらに向けてきた。俺はその顔を見ると苦笑いをしながら本に目をやり、見出しの横に続く文章を読んだ。

「え〜っと・・『風を起こすという動作は能力の中で一番簡単であり、ほとんどの能力者が使えるものである。』って・・・じゃあ何で俺はできないんだよ〜〜〜」

ウガ〜っと頭を掻く俺を見てシラはクスクスと笑った。

能力は本来どの天使、神に備わっている。

昔は全ての天使達が使えていた能力。

しかし、古代の時代に起こった戦争からその力を恐れて使わなくなり、次第に使い方までも忘れていったと書物には書かれている。

そして、能力に関係する書物はこのザラードベイスにしかないらしい。

他の反乱軍の手に渡るのを避けているとか・・・・。

本来ならそんな書物、俺なんかに貸してもらえないはずなんだが、シラが借りると慣れば話は別のようだ。

「・・!」

俺は嫌な気配を感じて立ち上がり、自分の真後ろに向かって思いっきり回転蹴りを入れた。ものすごい勢いの蹴りをぴたりと止める。と、その先には鋭い刃の先が鮮やかに光っていた。

刀を持つ奴は俺より背が高く、ゆっくり見上げるとそいつはニヤリと俺を笑った。黒い目・・黒い髪・・黒い軍服・・。

俺はおどろいて思わず足を地面にドスンとたたきつけてしまった。

「あ―――――――!」

指を指してしまった俺をニヤニヤと笑いながらそいつは刀を左の腰にある鞘におさめた。

「久しぶりだな・・レイン」

その言葉と今までの俺達の行動に驚いたシラは俺の後ろに隠れて服の裾をつかんできた。

「シラ・・心配するな。こいつは悪いやつじゃないから」

「そうです。このバカチビより優秀です」

「性格は最悪だけどな・・」

シラに向かって営業スマイルの顔を向けているそいつは、俺の一言を聞くなり俺をギロリと睨んできた。しかし、その顔を見たシラが半泣き状態になってしまい、すぐさま何とも言えない営業スマイルに戻った。

そいつはゆっくりと片膝を地面につけると忠誠のポーズになり、

「申し遅れました。この度最神様の護衛を勤めることになりました、中界軍第5隊所属ヤマトです位は少佐になります」

そう言ってシラの手を握ろうとしたが、シラが思いっきり逃げたのと同時に俺がヤマトの手を思いっきりたたいてしまったので握り損ねてしまった。ヤマトは少しムッとしている・・。

本来なら忠誠の体勢になったら相手の手の甲にキスをすることになっているが・・こいつには・・こいつだけにはシラに触れてほしくない。

何人も同じ様に・・まあ社会的にだけど・・見てきた。

だが、ヤマトにだけはい・や・だ・・・。

理由は簡単。あいつとはかなりといっていいほど馬が合わない・・。ライバルといっていい。

「なんでお前がここに来るんだよ」

「それはこちらの言葉だ。なんでバカチビのお前がこんな重要な役目をしている・・俺ならともかく・・・・・」

「俺ならともかく・・・・は余計だろ・・」

俺は半泣きのシラの頭をなでながらヤマトを睨んだ。

ヤマトは俺の同期だ。つまり同じ年に死んで、同じ年に天使になったってこと。でも、死んだ時の年齢が2歳違うから今の年齢も2歳違う。

背は俺より15センチぐらい高く、軍部の服装で胸には少佐という証バッジが光っていた。死ぬ前と同じ髪に黒い目だから天使用の名前ではなくて前世の「ヤマト」という名前に無理やりしたらしい。

まあ、性格はとてつもなく悪いが剣術と頭はかなりいい。だから俺にはとても耐えられないあの中界軍に今だに所属していて、しかも少佐にまでなっている。

「で、そのバカでもチビでもないお前が何でこんなところに来てるんだ?」

俺の質問に自信たっぷりの顔で話そうとヤマトは黒い前髪をかきあげた。

「実はだな・・」

しかし話始めようとしたとたん・・。

「失礼します・・!」

ヤマトの言葉をさえぎるように見回りの兵士が俺たちの近くに走ってきた。

グレーの髪に、オレンジの目をしたこれまた軍人だ。

シラとヤマトに一礼した兵士は、息を切らしながら話し始めた。

「緊急事態です」

そして、ビシっと背筋を伸ばす。

ヤマトより、何倍もまじめそうだ。

「この前最神様を殺しに来たレジスタンスの三人が何者かに殺害されています!」

「!!」

「何で・・・・・」

俺がボソリと言うとシラは強張って俺の袖をさっきより強く握りしめた。

「何で・・あいつらは牢屋に入れていたはず・・」

「それは僕から説明するよ」

後ろを振り向くとこちらに向かってフィール様が歩いて来ていた。

俺と兵士、ヤマトは同時にフィール様に頭を下げた。

「君は・・」ヤマトにフィール様はたずねた。

「ハイ。今日から最神様の護衛につきました、中界軍第5隊所属ヤマト少佐です」

さっきとはえらい違いで、ヤマトはビシッと敬礼した。

「・・・!・・・。そうかい・・」

フィール様は一瞬顔を曇らせてから

「じゃあここは任せられるね・・。最神様を頼めるかい?」

「ハイ」

「え・・!じゃあ俺は・・」

「君は僕と一緒に現場に行こう・・。僕とレイン君しかきちんと顔を見ていないからね・・」

「わかりました・・」

フィール様について行こうとした俺は腕にかなりの重みを感じた。

「シラ・・」

「・・・・・・・・」

「俺行かなくちゃ行けないんだ・・だから・・な?」

「・・・・・・」

シラは俺の袖を強く握り、ブンブンと首横にふった・・。

「・・な?」

あの時襲ってきたレジスタンスが殺された今、俺もシラのそばにいてやりたいが・・仕方ない・・。

「ヤマト・・。頼むぞ・・」

「あ・・ああ・・」

俺はシラの腕をそっと袖から放して頭をポンポンとたたいた。

「すぐ帰ってくるから・・」

そして少し笑って軽く手を振った。

後ろ髪を引かれる思いで俺はフィール様の後ろから牢屋に向かって歩いていった。 

  

  

  

  

「これ・・」 

 俺のこぼした言葉がせまく冷たい部屋に静かに響いた。

  日の光の入らない部屋は、何本もの蝋燭に火が灯されていた。

  そこには確かについ数時間前は息をしていたであろうそれは何本も立っている鉄柱の向こう側にある。

  白い翼はもぎ取られ、羽根があたりに飛んでいた。顔から血が髪の毛に突っ立って行きピタピタと地面に落ちている。

  「……」

  あまりの光景に俺は顔をそらし、右手を左胸にもっていって服を思いっきり握った。

  ただ辛いだけでこの場から逃げだしたくなる。

  だが、その心と違って何かがウズウズと体の奥から湧き出てくるようにも思えた・・・・。心臓の鼓動が早くなる・・・・・。

…血…死……………

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

何ともいえない感情に歯をかみしめた。

動く気配もまったくない。壁と地面を赤く濡らしたそれは俺に何か訴えているような気がした・・・。

  「こんな状態じゃ顔も確認できないね・・」

  フィール様が俺の肩を叩き外に出ようと促した。俺はそれに従い外に出た。少しほっとした。

  フィール様も大きなため息をついて楽な顔になった。

  「大丈夫かい?気持ち悪くないかい?」

  「ハイ。大丈夫でした・・」

  「すごいね・・あんなにひどい死体を見たのに大丈夫なんて・・。僕が初めて死体を見たときは・・」

  確かにひどかった・・・でも俺の中に何かが渦まいて・・・・・。

  「あの状況じゃあどうにもできないから・・・会議に出しても・・」

  「え!・・こんなことになってるのに上神様には伝えないんですか?」

  「うん・・・あの人たちは自分に関係する政治の話しかしないから・・・」

  フィール様は首を振った。

  「もう自分のことしか頭にないんだ・・・。戦場での実践もないし、ただ自らの欲望であそこまで這い上がった人たちだから・・・」

  「俺にはそんな風に見えませんでしたけど・・・」

  「それはこの世界、そして人間界にいる神と天使に見せる仮面にすぎないんだよ」

  「・・・・」

  「神々こそ本当の悪魔かもしれない…」

  「え…!」

  俺はその言葉を聴いて驚いた。

  フィール様の顔は真剣で、辛そうだった。

  「それに、僕もその中の一人なんだし・・・・・・・・」

  「違います!」

  俺は強く首を横に振った。

  「フィール様は違います!ただの天使の俺をシラ・・・じゃなかった・・・最神様の護衛に推薦して下さったし・・とても親切だし・・・最神様のこともすごく気にしてくれてるし・・・・」

「もうそろそろ帰らないと」 

  フィール様はニコリと笑い廊下を歩きだした。

  俺はその背中に少しの違和感を感じた。

  「何事だね?」

  フィール様の背中を見ていた俺は、突然後ろから声をかけられ、振り向いた。

 「ダスパル様!」

 五大上神の最候補、ダスパル。

 外見は普通のおじいさんだが、その力は最神を上回ると言われている。

 『神々こそ本当の悪魔かもしれない…』

 先ほどきいたばかりのその言葉を思いだし、俺は少しダスパルを睨んだ。

 こいつはシラを使って…。

 「何か問題でもあったかい?」

 「いえ・・・」

 俺は急いで言葉を返した。

 「そうか、それならよい」

 そう言ってダスパルは庭を眺めた。

 「最神様のあの件から、何かと物騒な噂を耳にしてね。心配だよ」

 「・・・・」

 俺は何も言わず、その場を立ち去ろうと頭を下げた。

 「どうだい?この天界は」

 「え?」

 突然ダスパルに話しかけられ俺はうろたえた。

 「人間界とはえらい違いだろう?」

 「え、あ、はい」

 ダスパルは俺に笑いかけた。

 「機械もなく、時間に追われる日々もない。人間界とはえらい違いだろう?」

 「そうですね」

 ダスパルはひげを触りながら話を続けた。

 「私も君と同じ人間界の天使だったんでね」

 「そうなんですか!」

 「ああ」

 「と、いうことは元は人間?」

 俺の質問にダスパルは微笑んだ。

 「三十年前に妻と一緒に死に、生まれ変わり、この世界に来た」

 「・・・・・」

 「人間界出身は神になるのが困難だ。私はある約束のため必死で神になったよ。そしてこの地位も…」

 「・・・・」

 「おかげで約束が守れそうだ」

 「・・・・・?」

  俺はその言葉に疑問を感じて首をかしげる。

 「しかし、この地位についてしまって、困ることがある」

 「困る・・・事ですか?」

 「家族に会えない」

 「ご家族が・・・・」

 「ああ、もう孫もいるらしい」

 「人間の家族のため、直接は会えないがね。やはり人目見たいものだよ」

 「分かります。その気持ち」

 俺の言葉にダスパルは笑った。

 「何だか君を見ていると、家族の事を思い出す。

  何だが、娘に似ているんだ。

  君を呼ぶとフィールが言った時は正直反対したが、呼んでよかったと思っている。これからも最神様についていてくれないか?」

 「もったいないお言葉・・・」

 俺は頭を下げた。

 「頼みがあるんだが、聞いてはもらえないかね?」

 「はい?」

 「もし、これから中界に戻ることがあるのなら私の家族を見てくれないか?」 

 「・・・・」

 俺が質問に困った。

「もうすぐ会議の時間だ・・・」

 そう言ってダスパルは俺に笑いかけ、長い廊下を歩き出した。

 「ダスパル様!」

 俺は少し悩み、数歩、歩いたダスパルに声をかけた。

 「その約束お引き受けいたします」

 俺も、人間の大切な人がいるから・・・その気持ち分かる・・・から。

 ダスパルは笑みをこぼし、うなずいた。

 フィール様の話は本当だと思う。

 でも、そんな人にはやはり見えない・・・。

 本当に、シラを・・・。

 時と時の狭間にたたずむ俺は何が本当で、何が真実かわからなくなった。

 

 

 

 

 「はあ・・・」

 ため息を一つついた俺は、赤い手すりが続く渡り廊下を歩いていた。

 『神々こそ本当の悪魔かもしれない…』

  俺はフィール様の言葉が引っかかったまま何とも言えない気持ちに浸っていた。

 「あ・・・!」

  すぐ先に見たことのある黒頭が見えた。

  「何やってんだよ」

  その頭に俺は声をかけた。

  「ん・・・・?」

  その頭は「なんだ」という風に面倒くさそうに振り向いた。

  「シラは?」

  「最神様は湯殿・・」

  ヤマトは大あくびをしながら言った。 

  赤い手すりが少しばかり切れていて、その隙間には日本庭園を思わすような一枚岩が堂々と座っている。そして近くに少し小さな石畳がそれに津図いている。手すりの後ろには赤く彩られた扉が重々しくたたずみ、人々を威圧する。

一枚岩にヤマトは腰掛け、足を組んでいた。横には座った時、邪魔になるのだろう、愛用の二本の黒い刀がそろえて置いてある。

柄にドラゴンの彫刻が彫ってあるものと、鳥が彫ってあるものがあり、それぞれの目には青と赤の水晶がくみこまれていた。

 俺は手すりによりかかり「ふう」とため息をついた。

 「疲れてんな。どうだったんだ?」 

 ヤマトはいつもより少し砕けた話し方で話しかけてきた。

 「聞くなよ・・・思い出すだけでも気持ち悪くなる・・・」

 俺が嫌そうな顔をするとヤマトはククッと笑う。

 「お前はどうなんだよ。シラと話できたのか?」

 「聞くなよ・・・思い出しただけでため息が出てくる・・・」

ヤマトが嫌そうな顔をし、俺はククッと笑った。

  その後、少しの間が広がった・・・・。

  俺は、毛先に近づけば近づくほど緑の濃くなる自分の髪をなでた・・・。

  ヤマトは横に置かれている刀の鞘をいじっている・・・。

  夕暮れに少しだけ冷たい風が吹き抜けた。

何事もない、この時間がなんともいえないほど落ち着く・・・・。

  さっき俺はこいつ・・・ヤマトとは「かなりといっていいほど馬が合わない」と言ったがそれは間違いだ・・・。

「馬が合いすぎる」のだ・・・・。

 人間として死んだ時期も天使として生まれ変わった時期も全く一緒の俺たちは同じように軍隊に入って同じように働いた。その中でこいつとは『馬が合う』ということわざがぴったりの仲だった。

 だから余計にこいつとはやりあい、いがみ合い、競い合った・・・。そして支えあった・・・・。まあライバルであり、良きパートナーだ。少し気が引けるが・・・。

 小さな間を壊したのはヤマトの方だった。

 「お前は何で天使になろうと思ったんだ?」

 「は?」

 「質問してるんだ、答えろ・・・・」

 急に聞いてくるヤマトに少し驚いたが、夕暮れのせいか俺は口を開けた。

 「ただ、妹の傍にいたかっただけで・・・できればその病気を治したいと思ったからだよ」

 「妹?病気なのか?」

 「生まれつきな・・・」

 「シスコン・・・」 

 ヤマトは聞こえるぐらいの小さな声で言った。

 「うっ・・・うるさい!」

 俺は顔を赤くした。

 「・・・でも妹の病気を治すことはできないだろう」

 「それができるんだな〜。金を貯めて治してもらうんだ!」

 少し自慢げに話した俺をヤマトは呆気な顔で見てきた。

 「何だよその顔は!」

 「いや・・どうがんばっても無理だろうそれは・・・・」

 「できるさ。黒のマントを着たお姉さんが俺には特別価格で願いをかなえてくれるんだぜ!」

 「・・・・・」

 ヤマトの体が一瞬固まった。

 「ん?・・・・どうした?」

 ヤマトはスクリと立ち上がったと思うと俺の肩にポンと手を置き

 「そりゃ詐欺だ!」

 と言った・・・・・・・

 「ぬうわ!」

 「だってそうだろう・・・そんなこと言い出すのは詐欺師しかいだろう・・」

 「でも・・・安心しろって・・・お金さえあれば・・・」

「最近そういう手の被害多いらしいぞ・・・」 

ヤマトの顔を見ると俺を哀れんでいるようにしか見えない・・・。

「なななな・な…な〜〜〜〜〜・・・・・・・」

  俺はウガ〜っと頭を抑えた・・・・。

  「じゃあ俺がいつも天ぷらうどんを食いたいのを我慢して素うどんにしていたのは一体何だったんだ〜!!」

  「お前がいつもケチケチしていたのはそれが原因だったとはな〜」

  ヤマトはもがいている俺を楽しんでいるのか、哀れんでいるのが遠くの人を見るように俺を見た。

  と何かを思い出したようにヤマトは俺の肩を叩き

  「こんなことしてる場合じゃないんだ。もうすぐ最神様が出てくる頃だから、お前夕飯のお膳持って来い!」

  落ち込んでいる俺にズビシとヤマトの声が刺さった・・・。

 

 

 

 

「・・・・・大体あいつは人使いが荒いんだよ・・・」

俺はシラとヤマトと自分の夕ご飯が入った3段重ねのお盆を持って離れの部屋に向かっていた。

 ふと道の脇に庭があるのを見つけた。何となく足がそっちの方に歩いて行く・・・。

 外に出ると少し風が吹いているのが感じられた・・・。

 結構大きなその庭はここ以外入り口が無いみたいだった。

俺はお盆を置き、グッと背伸びをした。

 「はあ〜・・・」

 空を仰ぐと夕暮れにもかかわらずまだ青く、隅には少し色づいた太陽が見えた。

 「まるでシラの目の中にいるみたいだな・・・」

 自分で言って何か悲しい気持ちになった。

 さまざまな形をした木々が風に吹かれて静かに揺ている・・。

 俺は大きく息を吸うとゆっくり歌いだした。




 

どんなに手を伸ばしても届かないこの空を思ってる

太陽を胸に宿したように熱く熱く

 

僕の小さな世界はすべてここで回っていた

君の存在で造られていた

地を這う小鳥のように天を仰ぎ ただ飛ぶのを恐れていた

でも君が来てくれたから 君が教えてくれたから

この空は自由だって

 

涙の降る雲はもう消えた

もう誰も君を泣かす者はいない

君と手を取って 歌う詩はセレナーデ

一欠けらの運命を握り締めて

陽だまりの中

 

どんなに思ってもどんなに胸痛めてももう届くことのないこの空を僕はずっと見上げて

どんなに叫んでも届かない遠き空を愛している 

 

だから歌おう風に乗せて

この思いceu azulに響け 



 

 歌い終わり、俺は深呼吸を何度もした。

 久しぶりに歌ったため、少し声の調子が悪かった。

「ん?」

何か遠くの空に黒い点のようなものが見える・・・。

 「何だありゃ・・・」

 それはだんだん大きくなって・・・

 ズダァァァン!

 すさまじい音で、俺の真横に落ちてきた。

 「ぬあー!!」

 俺は間一髪でバク転した。そのおかげで物体の下敷きにならずに済んだ。 

 「何だ!何だ!」

 砂埃を巻き上げてその物体はムクリと起き上がった!

 黄色く細い目、黒くベットリとした羽・長く赤みがかった歯・甲高い声・・・。

ドラゴン!

いや・・・

 それだけじゃない!

 そのドラゴンに乗っているのは・・・黒ずくめの鎧・太い剣・顔が見えない兜に描かれた、見たことのあるエンブレム・・・

 「悪魔・・・!」 

 そいつは俺に向かって剣を構えた!

・・・・来る!

 

 

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