BLUE SKYの神様へ〜戦いの中で〜



 ドガ―――ン
  けたたましく音が響き、騎士の剣が砂埃を上げて俺の真横の地面に食い込んだ。

 俺はとっさに右によけて体制を整える。

 「な・・・!」

 あんなの食らったらひとたまりもない・・。

 騎士は剣を地面から引き抜くと、ドラゴンの手綱を引っ張り俺の方へ体を向き直した。

 「キィーヤー!」

 ドラゴンが甲高い声で叫び突進してくる。俺は突進してくるドラゴンをヒラリと交わすと、右足で思いっきり左目に蹴りをいれた。

  「ギーャー」

  ドラゴンが体制を崩し、左目の痛みにもがく。

  俺はそのまま体を一回転させ、少し高く飛んで騎士の顔めがけて回し蹴りを食らわし・・

  「・・・!」

  回し蹴りをした俺の足は騎士の右手によってガードされ、跳ね返された。

  「こんにゃろ」

俺は地面に両手をついて、そのまま後ろにバク転しようとした。が、騎士は逆立ちの体制でいる俺に、剣を振り下ろしてきた。

とっさに俺はその剣を持っている左腕を両足でつかみ受け止めて、体をそのまま思いっきりねじる。

  バキッ

  とてつもない音を聞いた後、俺はそいつの腕を離した。何回かバク転し後体制を整える。

  悪魔の騎士を見ると、暴れるのをやめたドラゴンを降り、こちらを見ている。

変な方向に垂れ下がっている左腕はまるで何事もなかったように剣を離さず、今にも飛びかかって来そうだ。

 確か腕を折ったはずなのに、うめき声一つ漏らさない。

  ドラゴンはドラゴンで、さっきまでの痛みが消えたような顔をしている。

  「まだやるってのか・・・?望むところ!」

  俺は足元の砂を一握りつかむとそいつらに向かって走った。

  やはり初めに来たのはドラゴンだ。こりもせずに噛み付いてきた。

  俺はそいつの目に砂を押し付けた。

  「ギャース」

  叫びながらこっちに向かって襲い掛かってくる。

  「こんの・・」

  俺はドラゴンに蹴りを入れた・・が、的は外れ、そいつの牙がボキリと折た。

  それならと俺はそいつの首めがけて殴った。

  倒れ掛かってくるドラゴンの腹にもう一発蹴りを入れ、数メートル離れた木に直撃させた。

  と、後ろからものすごい殺気とともに大きな剣が振り落とされた。

  腕を折られているせいだろう、全く外れた所に剣は刺さり、地面が思いっきりへこんでいる。

  俺は腹に向かって蹴りを入れたがビクリともしない。

  「そんなら」

  俺は高く飛んで体が宙に浮いた状態で体制を整え、騎士の後頭部めがけて思いっきりかかと落としを食らわせた。

  「ズカーン

  そいつはそのまま地面にたたきつけられピクリとも動かなくなった。

  俺は息を整えながら立ち上がった。

  「化け物!顔ぐらい見せろ!」

  俺は騎士の兜をはぎとった・・・・

  「・・・!」

  ザザ――――・・

兜の中から出てきたのは顔ではなく・・・砂!

俺が驚きを隠せないままそいつの体は砂に変わり、鎧だけの姿になってしまった。

  後ろを振り返るとドラゴンの姿はなく大量の砂と俺が折った牙だけになっていた。

  俺はその牙を手にとって見る・・・確かに本物だ。

  「ピ――――――――――――――― !

  ものすごい笛の音・・・!

  「シラ!

  シラが危ない!

  

 

  

 

 

  「ハア・・・ハア・・・」

  息を切らしながら俺は永遠と続くのではないのかと思うほど長い廊下をただひたすら走っていた。

  シラ・シラ・シラ・・・・!

  あ〜もうなにやってんだ俺は!肝心なときにシラの傍にいないなんて!

すぐに帰るって約束したのに・・・。

  後悔の渦にもがきながら走り続けた。

  この先を曲がると近道になるはず・・・。

  俺はスピードを減速しないままカーブした。

  曲がった先の庭にはたくさんの鎧の悪魔、それと戦う兵士や神達が見える・・・。

さらに加速しようとした瞬間

  「うわ!」

「きゃっ」

  目の前の部屋から女の人が2人飛び出してきた。

  俺は先に出てきた人に思いっきりぶつかる。

  「ごめん」

  その人の額に水晶が光っている。

  「すいません」

  俺は言葉を言い返した。

  その瞬間、女の人たちが出てきた部屋から黒い騎士が姿を現した。

  「邪魔だ!」

  俺はそいつに殴りかかろうとしたが、効かない事を思い出し、みぞうちの部分に蹴りをおみまいした。だがそいつは、やはりビクリともしない。

  後ろにいる二人をかばいながらもこいつを倒す方法を必死に探す・・

  ここはさっきみたいに大きなスペースがないからあんなド派手な倒し方はできない・・・いっそこのまま庭に連れて行って・・・

  そう思っている時に俺の足元の横に何かがブスリと突き刺さった。

  「刀?」

  それは赤い目をした鳥の刀だった。

  その刀はまるで俺のために来たと言わんばかりに光を浴びて光っていた。

  俺はその刀を反射的に廊下の板から引き抜き、騎士の鎧と兜の間に刃を刷り込ませ真横から首を切り落とした。

  ザザー

  その瞬間鎧の中にあった体のすべてが砂に変わり、鎧は後ろへと倒れた。

  「ここは危険です。早く逃げて下さい」

  「はい」

  二人は俺の来た道を走っていった。

  俺は辺りを見渡した。かなり大きな庭は最悪の状況になっていた。

  たくさんの鎧と砂、血みどろになって倒れる兵士たち、まだたくさんの悪魔たちと戦う者・・・。

  「ヤマト!」

  その中にヤマトの姿が見えた。

  そうか・・・この刀はどこかで見たことがある気がしたが、ヤマトのだったのか・・・。

  ヤマトは悪魔たちに囲まれて、ピンチになっていた俺に刀を貸してくれたようには思えない・・・。刀を構えたままで少しづつジリジリと追い込まれているようだ。

  俺は走り出し、今にもヤマトの背中に切りかかろうとしている悪魔の首を切り落とした。

  返り血をかなり浴びたが、すぐに砂に変わっていく。

  次の敵に切りかかり、両腕を斬りとった。

  ヤマトは俺の登場に驚きはしたが、身を翻し、辺りの悪魔に斬りかかる。

  何体か倒した後、ヤマトと背中合わせになり辺りには6、7体もの騎士たちに囲まれていた。

「一応礼を言うが、ナイスな加勢とは思えないな・・・」

 「今にも死にそうな少佐殿がいたもんでついね・・」

 「何が死にそうだ・・あれ位、俺一人で十分だ・・」

 ヤマトは刀に付いた砂を払い取った。

 構えの姿勢でジリジリと足を動かしながら辺りをうかがう・・・。

 悪魔の方も少し体を揺らせながら、飛び掛る機会を捜している・・・。

 「は・・・すいませんね。出世のチャンスを邪魔して・・」

 「こんな事で出世できるのなら俺はとっくに大統領にでもなっている・・・」

 そんな会話をしながら俺たちは少しずつ少しずつ庭のすみに追いやられて行く・・・

 「何なんだ。こいつら人じゃ・・・」

 「バカチビが・・・『砂人形』だ!

悪魔の使い魔。砂をつめた鎧に血痕でエンブレムを書くと人と変わらない生物になる」

 「ただの怪物か・・・・シラは?」

 「フィール様と一緒だ。お前と合流するということになっていると聞いたが・・・?」

  ヤマトが不思議そうに言った。

  そんな話聞いた覚えはない。

が、フィール様と一緒だと聞いたら少し安心した。

  いつの間にか俺たちの後ろには壁が立ちふさがっていた。

「じゃあここは任せてもよろしいですかな少佐殿?」  

  「護衛役が二人もここで足止めをくらっていてはいけまい・・・・・」

  俺はさらに壁に一歩近づきヤマトの後ろに立つと、持っていた刀を地面に突き刺した。

  ヤマトは騎士たちから目をそらさず、俺が刺した刀を抜いた。

  少しずつヤマトの髪がなびきだしたと思った途端、ものすごい勢いで風が渦を巻き、二刀からはバチバチと電気が流れだした。

  「行け!」

  俺はその言葉を聞くなり、真横に走り出し俺の背丈はある高さの壁を飛び越え反対側へ着地した。

  ガシャーン!

  壁の向こう側からものすごい音が聞こえてくる。どうなっているのか気になるがとにかく俺はいつまでも続く廊下を走り出した。

  向かうところは決まっている。

  …・・・・中央会議室・・・・・

  「シラ!」

 

 

 

 

 

 「失礼します!」

 俺は中央会議室の入り口を勢いよく開けた。

  中は真っ暗で・・・

  バチ!

  「い・・・!」

  嫌な破裂音と急激な痛みに襲われた。

  これは・・・

  「盾[シールド] ・・」

  部屋の中の明かりが少しずつ灯りだす。

  真ん中には丸いテーブルの周りに人影が見え・・・・。

  「上神様・・・

  上神様は俺の存在に気づかない。

  「しかし、ここで中界軍など出す必要は無いと思うが・・・」

  「いや、こんな一大事に呼ばなかったら後々何か問題になりうるかも知れません。これから敵の数が増える可能性も有りえますから」

  「だが、一つの軍隊を動かすのにはかなりの金がかかるものここは天界軍に任せたほうが先決と思うがな」

  「上神様!

  上神様は俺の叫び声でようやく話しを中断し、やっとこちらを向く。

  辺りを見渡したがそこにはシラの姿も、フィール様の姿もない。

  「おお!レインよく生きておった。もう少しの辛抱だ。すぐ天界軍が来るからの」

 ダスパルが俺の言葉に答える。

  「シラ・・最神様は・・・!」

  「さあ?私達は外へ一歩も出ていないからさっぱり。あなたといたのではないの?」

  フルーラが言う。

  何でそんなに落ち着いてられる・・・。

  「ではフィール様は・・」

  「そういえば姿が見えんな」

  ダーバラ・・・。

  たくさんの命が奪われているんだぞ・・・。

  「どうして皆様はこんなところに・・・」

  「どうして・・・って我々は戦う兵士なのではない。よりよい作戦を立て実行に移すために指示する上官なのだぞ」

  「だからってそんなに悠長に・・・」

  「落ち着きが無ければ何もできんよ」

  嘘だ・・・

  「我々上神が慌てふためいていてはいけまい・・・」

  しかし、見渡せばみな青ざめた顔をして、机の上で組んだ手は小刻みに震えている。

  もう、誰がしゃべっているのか分からない。そこまで気が回らない。

  「とにかくもうすぐ軍隊が応援に来るはずだ。それまでの辛抱だ」

  俺の握り拳に力が入る。

  「ではそれまでこの状態で戦えと・・・」

  我慢の限界・・・

  「我々が出て行ってもどうにもなるまい」

  『ただ自らの欲望でここまで這い上がってきた人たちだから・・・

  「・・・・・」

  『神と天使に見せる仮面に過すぎないんだよ

  「・・・・・」

  バーン!

  ものすごい音を立てて俺は窓を全開にした。

  「だったらこの状況を見て何も思わないんですか!」

外の状況はすさまじく、たくさんの鎧の抜け殻と、血まみれの兵士たちがたたずんでいた。

  「・・っ」

  上神は一斉に顔を背けた。

  「自分の事しか頭になく、政治の話ばかり、シラに何もかも悪いこと押し付け、何かあれば逃げ出し、権力で何もかも動かして・・・。

  たくさんの人が、兵士が死んでいる。それなのにあんたらは!

  俺は震え上がる上神をにらんだ。

 『神々こそ本当の悪魔かもしれない…』

  「お前らこそ本当の悪魔だ!

  

 

 

 

  「ハァ・・ハァ・・・」

  もう息をすることすら忘れるほどに俺はひたすら走り、青髪の後ろ姿を探した。

  離れのシラの部屋についた俺は、走ってきた勢いで扉を開けた。

中は空っぽで、窓から入ってくる風にカーテンがなびいていた。その隣の机の上にはシラが読みかけていた茶色の表紙の分厚い本がその風でめくれていた。 

  「クソ!」

  俺は身を翻し、元来た道をまた走り出した。

  さすがにザラードベイスの中心地だけあってかまだ悪魔、ましては人一人姿はなかった。

  「・・・・!」

  と、急に俺の意思とは関係なく勝手に足が止まった。

  そこにはきれいに整備された庭と、その真ん中に続く道が一本伸びている。

  「ハァ・・ハァ・・・」

  俺はなぜかその道に引かれる。

  何だろう・・・前にも感じたことのある・・・何か・・・

  「・・・・・・・・」

  ふと気づくとさっきまであんなに上がっていた息がまるで嘘のように落ち着いている。

  これは自分の意思なのか、それとも何かに導かれているのか・・・。

俺はその道に入り込んだ。

  進めば進むほど足取りは早くなり、最後にはもう全速力で走っていた。

  だいぶ走った時、目の前に小さな洞窟が見えてきた。

  後ろを見ると今まで自分がいた王宮が少し小さく見える。

  周りはいつの間にか草むらに変わっていて、その道は洞窟に向かっても伸びていた。

  外見は何の変哲もないただの洞窟だ。

  しかし、何か不吉な気配を感じる・・・・。

  俺はそのまま洞窟に入る。

  中はかなり広く、何ヶ所かにあるロウソクがほのかに辺りを照らしていた。

  道以外は浅い水面が広がっている。

  道の終わりはひらけていて、そこにはなにやら不思議な感じがする祭壇がある。

  そしてその祭壇の前に人影が・・・。

  「!」 

  そいつの背中からは大きく、暗黒の色をした悪魔の羽が!

  「悪魔か!」 

  そしてその後ろに座りこんでいるのは・・・。

  「・・・・シラ!

  シラは涙を流していた。悪魔はその額に手の平を向けて今にも能力を使おうとしている。

  「やめろ!

  俺はジャンプし、そいつの後頭部めがけて蹴りを入れた。

  が、そいつは俺の足をヒラリと交わした。

  俺はひるむことなく、次の蹴りを顔面に入れたがそれも腕でガードされ、シラの隣に着地した。 

「・・・・

 俺は目の前にいる悪魔の顔を見て息を呑んだ

 「あなたは・・・・!」

 シラが俺の手をギュッと握ってきた。俺もシラの手を握り返した。

 「‥・・・何で・・・・・フィール様・・・・

 



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