BLUE SKYの神様へ〜星々の夜〜
「・・・・ふう」
俺は小さなグラスに注いでいた酒を一気に飲み干した。
見上げれば、満天の星空。下を見るとたくさんの明かりが見える。
少し風が吹くと、床がギシギシと揺れた。
俺は会議が終わって、コヨーテに進められた監視塔に登っていた。
『今日はいろいろ疲れたでしょう。お酒が飲めるようであれば、監視塔で一杯したらどうです?あそこは眺めも最高ですし、他の人に邪魔されませんからゆっくり飲めますよ』
そう言って渡されたビンだが、ものの数分で半分になっていた。
「・・・・薄い」
そんな愚痴を言っていると、はしごの方から人が登ってくる音が聞こえた。
「本当だ!こんなところにいた!」
その声とともに眼鏡の男の子が顔を出した。
「コヨーテの言った通りだ!」
そいつは俺の方へ歩いてくる。
「コヨーテから頼まれて食事を・・・」
そう言って大きな葉にくるまれたレグナの肉を渡された。
「すまない」
俺はかなり腹が減っていた為、有難く頂いた。
「ねえ・・・隣、いい?」
「ん?ああ」
そいつは眼鏡をかけなおすと、俺の隣に座った。
「あの時はありがとう」
「・・・・・ああ、ガーゴイルのことか。俺も助けられた。お互い様だ・・・え〜っと・・・」
「あ!僕はミネル・・・宜しくレイン君」
「ああ・・宜しく」
俺は返事を返すと、肉を口に入れた。
ミネルの腰にはホルダーに入った拳銃が見えた。
「レイン君も第6班になったんでしょ?僕もなんだ」
ミネルは嬉しそうに言った。
「ああ」
「ルイもマルフィスさんも6班」
「?・・・マルフィスは5班の長だろう?」
「うん。第6班は他の班に所属していても入れるんだ。7班の予備軍だから・・・。それに7班に所属の人は絶対6班に入ってる。まあ例外で幹部のコヨーテやスグローグは違う班の長してるのに7班になってたりするけど。ルイは6班と7班に所属してる」
ミネルが少し羨ましそうに言う。
「7班はそんなに重要なのか?」
「当然だよ!」
俺の言葉にミネルは驚きの声を上げた。
「7班の人達は主に戦闘を仕事としてる。6班の・・・いやシルメリアの英雄達だよ!
「ほ〜」
「幹部のコヨーテは能力の研究の第1人者だし、スグローグとダングはあの最強の種族ウギルブフの生き残りだし。それにルイだってかなりの腕の持ち主だし・・・・」
「なるほど・・・・・」
俺は肉の一かけらを食べ終え、グラスに注がれた酒をグイッと飲み干した。
「それに長のオギロッドは軍にいた頃、すごいお偉いさんだったらしいし・・・・」
俺はその言葉に一瞬ピクリとし、聞き耳を立てた。
「戦争中は『蒼き獅子』って呼ばれたみたい・・・・」
ゲフッ
俺はその言葉に思わずむせてしまった。
「ゲホゲホッ・・・・・それ本当か!」
「ほ、本当だ・・・・けど・・・・大丈夫?」
「ああ・・・」
俺は少し落ち着こうと胸をたたいた。
「まさかこんな所で英雄に会うとはな・・・・」
「え?」
「いや、何でもない」
俺はまたグラスに酒を注ぎ少し飲んだ。
蒼き獅子・・・・・・。
20年前の英雄の名・・・・か。
中界軍第12艦隊所属、青髪の戦士。
その強さは誰もが認めるものだった。
『光の使者ガンクス』とともにほとんどの戦場へ赴き、勝利を治めた英雄。
『ヘブラス海』の奇跡と呼ばれた戦場も奴の力のもと勝利したのだと軍にいた時何度も聞いた。
だが終戦真近、妻を中界で失った。
人間に殺された、人間のフリをした悪魔が殺した。
いろんな噂が出回っているが、妻を亡くした獅子は復讐の為に下り立ち、中界に人間を殺した。
蒼き獅子は英雄の名を失い、『犯罪者』という新たな名前をつけられた。
終戦後、英雄蒼き獅子は公開処刑されるはずだった。アストラ平原の先、マルス軍事基地で。
しかし公開処刑は行われなかった。獅子は脱走したのだ。
それは、裏切り者として生きる道を選んだということ・・・・。
「どうしたの?」
「ん・・?ああ・・・・何でもない」
「難しい顔して。変なの」
ミネルは俺の顔を見て笑った。
だが、俺は笑えなかった。
脱走兵とはいえ、元軍人がいるだけでも動きにくい・・・・・さらにそいつが20年前の英雄だったとなれば余計動きが厳しくなる。
名前を聞いたときに気づかなかった自分に少し苛立ちを感じた。
何かに仕組まれたように俺の周りは成り立っている。そう感じてしまう。
シルメリアに来たこと。上神がマルス軍事基地にいること。
蒼き獅子の存在。
「ねえ、どうしてレイン君はここに来たの?」
「・・・・・・・」
ミネルの疑問に、また戸惑う。
また同じ質問・・・・。
「僕何か悪いこと聞いた?」
「・・・・・運命」
「・・・・・?」
「運命・・・・・・なのかもしれない」
俺は目の前の暗闇と、そこに浮かぶ小さな光を眺めた。
「どんなに逆らっても、運命からは逃げられない」
そう、まるで歯車の一部に巻き込まれたように。
「レイン君?」
「あ・・・・悪い」
俺は不安顔のミネルを見て、言葉を止めた。
風がかすかに吹き塔がギシギシと揺れた。俺たちの髪が風になびく。
「運命って何なのかな・・・・」
ミネルがゆっくりと話し出した。
「え・・・・・?」
「僕が今、こうしてレイン君と話をしていることも運命って言うのかな・・・・・?」
「・・・・・・・・」
「これから先に起こることも全部、運命で決まってるのかな・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「僕はそうは思わないけどな」
「・・・・・・?」
「だって、運命でも結局僕が決めたことを僕はするんだし、今レイン君と話をしたいと思うから僕はこうして君と話してる。
これから先だって僕がしたいことをするだけだよ。
運命なんて、僕が決めたことの後についてくる。そうおも・・・・・・」
「違う!!」
俺はミネルの言葉を遮った。
「俺は・・・・俺だけは・・・・・・違う・・・・・・」
「レイン君?」
「俺の運命は・・・・・・決まってる」
「・・・・・どうして・・・・・どうして、そう言い切るの・・・・・・・?」
「シルメリアに来た事も、俺がこうして天界を旅してきた事も、シラの傍にいてやれなかった事も・・・・・・・」
あの時から・・・・・・・
『お待ち・・・・・して・・・・お・・・りました・・・。我・・ここに・・・誓いま・・す・・・』
『レ・・・レイン・・・魔王・・・陛下・・・あなたに忠誠を!』
風でなびく髪とともに左目を押さえる。
『あんたはもうこの紋章と目は何なのか、そしてどんな運命をたどるのか分かっていると思うが・・・・・?』
『あんたの運命は暗くて先は見えない。進むしかないんだよ、あんたは・・・』
「逆らおうともがき苦しんでも・・・変わらない。このシナリオは・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・でも」
しばらく二人とも黙っていたが、ミネルがその沈黙を破いた。
「・・・・・・?」
「逆らおうともがいて、苦しんでることは運命を変えてるってことじゃないかな?」
「?」
俺は驚いてミネルの顔を見た。
ミネルは俺に笑いかけていた。
「だって逆らって苦しむことはその運命のシナリオには書いてないことだもん」
「・・・・・ぷっ」
俺はくさいセリフについつい噴出してしまった。
「あぁ――――――!笑った!」
「クックック・・・・いや・・・・すまん」
「も〜、せっかく良い事言ったのにぃ」
「すまん」
「別にいいけど」
ミネルはぷくっと膨れた。
俺はこいつに救われたのかもしれない・・・・。
俺は残っていた肉のかけらを食べ終えた。
「レイン君って結構難しい事考えてるんだね・・・・・・って、ええぇぇぇ!!!?」
ミネルは俺の飲んでいたビンを見て叫んだ。
「そのお酒!」
「ん?何か問題あるか?」
「そのお酒、ものすごい強い酒だって言ってた!」
「そうなのか?」
「ザルで有名のライやオギロッドも潰れちゃうんだよ!」
「へ〜」
「へ〜って大丈夫なの?」
「むしろ薄い・・・・・」
「信じられない・・・・・」
ミネルは、半分近くなくなっているビンを見つめた。
「飲むか?」
「いや・・・・・僕飲めなくて。っていうかその酒だったら誰もが断るよ!!!」
「へ〜」
俺は軽く返事して、またグラスに酒を注ぎグイッと飲んだ。
「そうだ!」
ミネルは思い出したように言った。
「ライに頼まれてたんだ。
ねえ、明日ここの案内をするよ。いろんなものがあって面白いよ!」
「・・・・・・・・・」
「明日暇でしょ?」
「ああ」
「じゃあ決定!」
そう言ってミネルは空を見上げた。
俺もつられて見上げる。
そこには数え切れないほどの星々が輝いていた。
この星達も運命に逆らうために光輝いている・・・・・・・今はそんな気がした。