BLUE SKYの神様へ〜過去の魂〜


 「どこまで連れて行く気だ?」

 「直に着く」

 俺の質問にあっさり答えたオギロッドは早足で前を歩いている。

 俺は歩きながら辺りを見回した。

 ミネルと昨日回った道からかなり奥へ入ってきた。

 周りは古代、人間が作った建物の壁が崩れていたり、見たことも無い機械が放置されている。

 もちろんそのコンクリートや、機械にはコケやツルなどがついている。

 ここら辺の建物は他と違ってほとんど形が無く、どんな大きさの部屋があったのかも分からない。

 『古代人間が作り出した機械から流失する有害物質のせいで天使、神の体が変化した人種の事をビーストっていうんだ』

 ライの言葉が俺の頭に流れる。

 人間の研究。

 古代に起こっていたことを今、中界の人間は繰り返しているのだろうか・・。

 「環境破壊・・・・汚染物質・・ビースト・・・」

 俺は小さな声で言った。

 環境破壊は人間の起こしたもの。

 その人間が起こした汚染物質の影響を受けて出来たビースト・・・天使異変種。

 人間は何故こんな天界全体を壊すぐらい研究したのだろうか・・。

 サヤの場所で聞いたデータに出てきた『人間王』の存在も気になる。

 この世界にいた人間が何故中界に落ちたのか。

 そして、何故今はその人間の存在を俺みたいな生まれ変わりの天使に監視させているのか。

 俺は・・・何も知らない・・・。

 魔王の魂を持っているだけの存在。

 しかし、この世界にいながら、中界やザラードベイスの事を知りすぎている。

 「・・・・はあ」

 俺は大きくため息をつき、前を向いた。

 歩く先に何やら大きな廃墟が見える。

 「ここだ」

 オギロッドはそう後ろを向いて言うと中に入っていく。

 ルイと俺は一緒に中についていく。

 「・・・・なっ」

 中に入った瞬間俺は、立ち止まり辺りを見回した。

 そこはまるで・・・。

 「聖堂・・・・」

 俺のこぼした言葉にオギロッドは偵察するように睨んでくる。

 「若!おられるか?」

 オギロッドの声が聖堂の中に響く。

 「こっちだ」

 遠くの方でライの声が聞こえる。

 「奥だ・・・」

 そう言ってオギロッドは先を歩く。

 「行くぞ!」

 ルイが俺に声をかけ、歩き出す。

 「ああ・・・・・・」

 俺は辺りを見回しながら歩き出した。

 そこは人間界にある教会や聖堂、そのままの建物だった。

 七色に輝くステンドグラスが日の光を浴びて道を照らす。

 高い天井にはたくさんの絵が描かれている。

 しかし、その美しい聖堂は戦争の傷で半分以上が廃墟になってしまっている。

 あちこちから外の景色が見え、植物が侵食している。

 「何かあったか?」

 ひときわ大きな部屋に入ると、そこにはライが座っていてそう言った。

 その部屋はたくさんの長イスが散乱し、ガラスの破片が散らばっている。

 前には巨大な十字架が飾られ、まだ残っているステンドグラスが光を取り入れていた。

 真上の天井には見事に青空が広がり、かすかに残っている所には、入り口にあった絵と同じ物が描かれている。

 「オギロッド・・・・・・よくここにいるって分かったな」

 「若はここがお好きですので・・・・・・」

 ライは一番前の席でステンドグラスの光りを眺めていた。

 「・・・そっか。で、何の用かな?」

 「は、『過去の鎖に縛られし者』が・・・・・・」

 「・・・・・・・?」

 「俺以外で見つかった。」

 ルイがふてくされたように言った。

 「が・・・・・・・レインか」

 ライはにやけながら俺を見た。

 「俺には何の事だかさっぱり分からん」

 俺はライに言って、聖堂の十字架を見た。

 「説明してもらおうか?」

 「良かろう。そのために人気のないここに来た。若にも聞いてもらいたいのでな。」

 俺の言葉にオギロッドはすばやく答えた。

 「・・・・・・・・」

 オギロッドは俺を見ると話し出した。

 「お前はその刀の秘密を知っているか?」

 「・・・・・・・・?」

 「その刀は古代3大戦争時に勝利をもたらした魔剣だ!」

 「魔剣・・・・・・?」

 古代3大戦争は昔人間と神、悪魔の3種が起こした戦争。

 後に神がこの天界に君臨し、人間は中界、悪魔は地下界に落とされた・・・・・・。

 「戦争で活躍した大天使や歴史の重要人物が持っていたとされる刀だ」

 「大天使・・・・・・」

 「その者達が勝利できたのも、この刀のおかげと言われておる。

  『魔剣を手にする者、その力と勝利を授かり、引き換えに過去と未来の鎖に縛られん』・・・・・・・。

  昔から伝えられている伝説の一説だ」

 「・・・・・・・・」

 「魔剣を手に出来る者は決まっておる。

  それは前世でもその刀を受け継いでいた者。

  それ以外の者が刀を受け継ぐと、たちまち魂を持っていかれる。

  まあ本当に持っていかれる事はないがな」

 「ならどうなるんだ?」

 「死ぬんだ」

 「・・・・・・・・!」

 俺の質問にオギロッドはさらに眉間にしわをよせて言った。

 「ルイの持っている刀もその一つ。 『白虎を司りし、白き魔剣』

  若もルイも、古代3大戦争で魔剣を使い活躍した大天使『ガブリエル』の子孫。

  つまり、刀の後継者呪われることはない」

 俺はルイの持っている刀を見た。

 その刀には俺の刀と同じようなタッチで白虎の模様がついていた。

 「『青龍を司りし、青き魔剣』

  あれは私の戦友である『ガンクス』の手にあったが、あいつは終戦間ぎわにこの世を去った。

  今その魔剣がどこにあるのか私でも知らない」

  青龍の刀・・・・。

  ヤマトの持っていた物だ。

  という事はヤマトは20年前の戦士ガンクスの生まれ変わりということになるな・・・・あれも魔剣・・・。

 「『玄武を司りし、黒き魔剣』

  それは今どこにあるのか、どんな姿の刀なのか、誰も知らないという」

 「・・・・・・・・」

 「そして、お前の持っている『朱雀を司りし、赤き魔剣』

  それは20年前魔王『シビィクスフェリオ』が持っていたとされている」

 「つまり、お前の前世はシビィクスフェリオだという事だ」

 ライがそう言い、俺を見つめる。

 「・・・・・・・・」

 俺は声が出なかった。

 知っている・・・自分の前世。

 しかし・・・・知られた・・・・。

 「魂を持っていかれていないのならば、前世とのつながりは確実。・・・それを報告しようかと」

 オギロッドが淡々と言った。

 「ああ・・・・・・」

 ライは青色の瞳で俺の顔をじっと見た。

 そして、

 「ま、いいんじゃない?」

 「はい?」

 適当な返事にルイが思わず声を漏らした。

 冷や汗をかいていた俺も目が点になる。

 オギロッドはそうだろうな、というかのように反応無し。

 「前世とか、過去の鎖とか、いいんじゃない?俺たちは今を生きてるんだし」

 「だけどな、アニキ。こいつは別問題だろう!

  20年前、死んだ悪魔の王『シビィクスフェリオ』の生まれ変わりだぞ!何をやるか分からんだろうが!」

 ルイが叫んだ。

 「そうだ。だからいいんじゃないか?」

 「なっ・・・!」

 「だって、その何かはもしかしたら俺たちにとって良い事かも知れないじゃあないか。なあ、オギロッド」

 ライはニヘラと笑った。

 「全く、若の言う通り」

 さっきまで苦い顔をしていたオギロッドも俺に向かって笑った。

 「・・・・・・・・・っ」

 ルイは思いっきり俺を睨んで叫んだ。

 「もう知らん!」

 そのままルイはドカドカと歩き、聖堂を出て行った。

 「・・・・本当にいいのか?」

 「何が?」

 俺の質問にニヤニヤ笑いながらライは答える。

 「ルイの言うとおり、これから俺は何をやるか分からないぞ」

 そう、目的の為にはシルメリアを敵に回すかも知れない。

 「言っただろう。過去は関係ない、と。

 大体、ここの連中は皆、過去に何かある者の集まりだ。今更、そんなこと言っていたらきりが無い」

 「・・・・・・・・・・・」

 「それに・・・・・」

 ライはニヤリからニタリと笑いを変えた。

 「お前はやらなければならない事がある。その為に生きている。だから大丈夫だ」

 「そんなもんか?」

 「そんなもんだ!」

 ライはまた光を七色に変えるステンドグラスを眺めた。

 なんだか俺は、ライの言葉に救われた気がした。

 「ではレイン、失礼しよう」

 オギロッドがライに一礼して元来た道を歩いていった。

 「ああ・・・・・・・」

 俺はグダーとだらけたライと別れた。

 俺は来た道を戻るオギロッドの後ろをついていく。

 腰に挿している刀の朱雀の絵を触る。

 シビィクスフェリオの使っていた刀・・・・・・・か。

 聖堂を出た途端にオギロッドは足を止め俺の方に向いた。

 「レイン。聞きたい事がある」

 「・・・・・・何だ?」

 オギロッドは俺を睨んだ。

 「先ほどの話、おぬしはそんなに驚かんかったな。

 すでに前世を知っていたのか?」

 「・・・・・・・・」

 俺は言葉を返すことが出来なかった。

 「それに、この建物を『聖堂』と言っていたな。

 その呼び名は人間しかしない。

 それに天界にいた古代の人間はこの建物をそのような呼び方では呼んでいなかったようだ」

 「・・・・・・何が言いたい」

 「『聖堂』と呼ぶ人間は中界にしかいないということだ。

  私は、一度中界に降りた。その時に聞いたのが『聖堂』という言葉だ」

 「・・・・・・・・・」

 「何故おぬしはその言葉を知っている?」

 「・・・・・・・・」

 「レイン・・・・・・お前、本当は何者だ?」

 「・・・・・・何者なんだろうな・・・・・・」

 「何?」

 俺は朱雀の刀を見つめた。

 「俺も・・・・・・自分が何者なのか・・・何者になるのか・・・知りたい」

 そして出来ることならこの先の未来を変えて行きたい。運命に逆らいたい。

 俺の言葉にオギロッドは苦い顔をした。

 俺は力なく笑った。

 俺の心と反対に空はいつもと同じ青空が広がっていた。






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