BLUE SKYの神様へ〜獅子の強さ〜
シルメリアに来て3日目の朝。
今日は起きるのが遅く、サリエルの『朝の儀式』の音で目が覚めた。
食事に行くと、ミネルやコスモス、ルイの姿がどこにもないことに気付く。
「サリエル、ミネル達は?」
俺は食べ終わった食器をサリエルに渡しながら聞いた。
「はい。皆さんは中央の広場で稽古をなさっていると思います」
「稽古?」
「はい。皆さん6班ですから」
「分かった。行ってみる」
俺はサリエルから聞いた広場に向い歩いた。
今日も澄み渡った青空・・・とまではいかないが雲の間から青空が広がっていた。
歩きながら日の光に心をゆだねる。
こんなにゆっくりとした時間は久しぶりだ。
ザラードベイスから出て、心休まることがなかなかなかったからな・・・・。敵が多いもんで・・・。
キンッ
広場に近づくにつれて、だんだん鉄のぶつかる音が聞こえる。
細い路地から顔を出すとそこにはたくさんの人達が剣を振っていた。
「ほ〜・・・ここに来て初めて戦争の前線だと実感した」
「今さら〜」
俺の独り言にミネルの声が突っ込む。
ミネルはタオルを首に巻いて、小さなダンベルを持っていた。
「おはよう。」
「ああ・・・すごいな、この人数でやるのか?」
「今日はいつもより多いよ。レイン君が来たからじゃないかな?」
「は?」
広場にはザッと200人ぐらいがそれぞれ稽古している。獣の形をした者や能力を使って戦おうとする者。はたまた休憩交じりに、辺りに散らばっている遺跡のガラクタに腰掛けている者まで、様々な奴等がごっちゃに集まっている。
「レイン君がこの前あの大きなゴーレム倒したでしょ。あの噂が広まって、新人に負けてられるかってさ・・・」
「何だそりゃ・・・・。ここは戦場の最前線じゃないのか?」
「・・・そうだよ?」
ミネルが何で?という風に聞いた。
「・・・もういい」
最前線のはずなのにこんなもんでいいのか?
キーン!!!
ひときわ大きな音を立てている方を見るとそこには何人もの見物者がいてここからでは見えなかった。
俺は何をやっているのか気になり、その場に歩き出す。
「何をやってるんだ?」
見物している男に聞く。
「おお!新人の小僧!今隊長とルイが稽古してるんだよ」
前を見るとそこには汗だくのルイと、余裕のオギロッドが向き合っている。
見た通りオギロッドの方に勝敗が上がっている。
「本物の刀を使うのか?」
「ああ・・・その方がより刀との呼吸が合うってさ・・・」
「ふ〜ん・・・」
ルイは、初めて会った時に持っていた柄が真ん中にある変わった形の刀を、オギロッドはかなり長い刀を持っている。
「はあぁぁぁ!」
ルイが仕掛けていく。
キィィン・・・
刀の響きとともにオギロッドは刀を払いのけ、ルイの首筋に刃先をピタリと止めた。
「おおおぉぉぉぉ!」
周りの見物者が歓声を上げる。
「さすがオギロッド!やっぱ強いね〜、ルイとか全然歯が立たないって感じ」
いつの間にやら俺の隣に来ていたミネルが嬉しそうに言った。
「・・・・あれが戦場の獣・・・蒼き獅子・・・・」
オギロッドの立ち振る舞い、威厳のあるオーラ・・・。
そしてあの動き・・・全く無駄が無かった。
「おお!レイン。来ておったか」
オギロッドが俺に気付いてて声をかけてきた。
「ああ・・・・・・・」
「どうだ?ここの生活は」
「まあまあだ・・・。だが、もう少し緊張感があれば前線と思うんだけどな・・・」
「ははは。それは無理なことよ。長があのだらけた若だからの〜」
「フッ・・・・・・」
ルイは悔しそうにオギロッドに一礼すると俺とは反対方向に歩き出した。そして近くにあった崩れた壁によかった。
「どうだ?お手合わせしていただけんかな?」
「ええ!オギロッドとレイン君が!」
「おおおおおぉぉぉ!」
オギロッドの申し込みにミネルと周りの者たちが歓声を上げた。
「・・・・・」
何も言わずに睨む俺にオギロッドが笑う。
「何でまた急にやるのかと問いたいのか?
ガーゴイルという獣を倒したと聞いてな・・・是非戦いたかったのだ。まあお前がどれぐらいの戦力になるのかも第7班の長として知っておきたいというのもありでな。」
「・・・分かった。」
俺はオギロッドの言葉を聞くと周りの見物客の中から抜け、輪の真ん中に進んだ。
俺も元軍人の英雄、20年前の戦争を生き残った者の力を知りたい。何よりシルメリア一の要注意人物だからな、何か少しでも情報が知りたかったし・・・。
「刀を抜け・・・」
オギロッドがそう言って刀を構えた。
「・・・・・・」
俺はゆっくり腰に挿している刀を抜いた。
辺りが静まり返り、稽古していた者も見物人に混ざったようだ。
やはり、新人でどんな力を隠し持っているか分からない小僧と、どこまで強いか分からない隊長の戦いは、皆気になるのだろう・・・。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
俺とオギロッドは刀を構えたまま動かない・・・・・・。
仕掛けて来い・・・ってことか・・・。
俺は勢いよく地面を蹴った。
先ほどの動き、そして昔軍隊に居た時に習った二大戦争時の戦闘スタイルを計算に入れると・・・。
俺は右に刀を動かし、首元を狙う。
キーン
「・・・!」
俺の刀は見事に跳ね返された。
「甘い!」
オギロッドが叫ぶ。
「・・・ック」
俺は一旦後ろに飛び退き、間合いを取った。
そして隙を見せないように一気に攻める。
3回の攻撃を仕掛けるが全てを見事に回避され、俺の足がもつれそうになる。
ガンッ!
オギロッドは刀で俺の足を引っ掛けた。
「こんの」
俺は崩れた体制を持ちこたえた。姿勢を低くし、逆に今度は刀の峰でオギロッドの足を狙う。
しかし、オギロッドは音も無しに足を浮かせ、刀を飛び越える。
俺はその瞬間を待っていた。
俺は刀を握っている右手を左首まで持ってきて、力を溜める。
オギロッドが地面に着地した直後、俺は溜めていた力を使って刀を振った。
ガキーン
オギロッドの刀が勢いよく跳ね上がる。
いける!
俺はそう思い、オギロッドの首元に刀を向けようとする。
と、俺は一瞬の間に刀を奪われ、その反動で体勢を崩す。
刀はオギロッドの手に渡り、逆に俺の首元に向けられる。
体勢を立て直そうとするが、時はすでに遅く、首に向けられた刀がギラリと光り、俺は仕方なくそのまま尻餅をつく。
ッド・・・・・・・・・・・
「っつ・・・・」
おおおおぉぉぉ!
周りに歓声が響く。
オギロッドは俺の顔と数メートル離れた所に転がる自分の刀を交互に見た。
「見事!まさか私がこんなに追い込まれるとは・・・」
「そりゃどうも・・・」
オギロッドはフッと鼻で笑った。
「・・・・・・!」
と、急にオギロッドの顔が曇る。
「お主・・・この刀どこで手に入れた?」
オギロッドは俺の刀の柄についている朱雀の模様を見つめている。
「・・・・もらい物だ」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
沈黙が続く・・・。
辺りの者も、どうなるのかと息を呑む。
「ははははは!」
急にオギロッドが笑い出した。
俺を含めた皆がきょとんとし、笑うオギロッドを見つめる。
「ルイ、喜べ!お前と同じ、『過去の鎖に縛られし者』が現れた!」
「!」
壁によかり腕を組んでいたルイの顔色が変わった。
「何の話だ?」
俺は立ち上がり、汚れた服を払いながら言った。
「ほお、しかも自分はその話を知らないときた」
オギロッドは嬉しそうに俺を見た。
「・・・・・?」
「皆よ、もうお開きだ!稽古を始めてくれ!」
オギロッドが辺りの見物者に叫んだ。
見物者は隊長の掛け声に反対も出来ず、仕方なくその場を離れる。
「レイン、ここでは話せぬ。少し場所を変えよう」
オギロッドはそういうと俺に刀を返して歩き出した。
ルイは俺を睨むとオギロッドの後をついていく。
「・・・ついて来い・・・と?」
俺はため息をつきながら刀をしまいその跡についていく。
「レイン君!」
後ろでミネルの声が聞こえる。
「お呼びみたいだ。また来る」
俺はそう言ってその場から離れた。
ミネルは少し心配そうな顔をしていた。