BLUE SKYの神様へ〜昔話から・・・〜
「はあぁぁぁぁぁぁぁ・・・」
俺は思いっきりため息をついた。
「誰かいるの?」
その声に気付いたのか後ろからアグニスが顔を出してきた。
「あ、すまない。資料を見たくて・・・」
俺はめくっていた資料を元の本棚に戻した。
ここはアグニスが長を務める第1班の管理する書物庫だ。
俺はここで見たくもない字ばっかりの本をめくっていた。
「何を探しているの?」
アグニスは俺の方に来て言った。
「ここの、インペリアの事と、魔剣の・・・」
「それなら・・・」
アグニスは俺の言葉の途中から動き出し、本棚の隙間を縫って進んでいった。
俺は急に動き出したアグニスに声をかけるタイミングをなくし、仕方なく待つことにした。
「けほ・・・」
少し埃っぽい書物庫。
俺は小さく咳をした。
中はさまざまな本が並んでいて、勉強嫌いだった俺には少し居づらいオーラを放っている。
今までこんな図書館みたいなところ来た事なかった。
人間の時は勉強嫌いで格闘技に明け暮れていたし、シラの護衛に付いた時はほとんど能力の勉強しかしなかった・・・。
「これね」
そう言って目の前に本棚の隙間からアグニスが現れる。
「結構古い物だから扱いに気をつけて」
「ああ、ありがとう」
そう言って俺はアグニスが持ってきた3冊の古びた本を受け取る。
「変わった書物を読みたくなったのね」
アグニスは不思議そうに言ってきた。
「勉強・・・したくなってね」
俺は苦笑いをして言った。
勉強・・・俺はその言葉に鳥肌がたった。
しかし、さっきのオギロッドやライの話、サヤの部屋で聞いた人間王の話、俺の前世の話。
どれもこれから知っておかなければいけない事だ。
俺は仕方なく本に目を通す。
「開いたとたんにめまいがする・・・」
俺の言葉にアグニスは少し笑い近くにあった椅子に座った。
「話しましょうか?」
「・・・?」
「その本の内容」
「本当か?」
「ええ、その本ならもう読んだから」
アグニスは足を組みなおし話始めた。
「まず、魔剣の事だけど・・・。
古代から使われている物らしいけど、所有者は決まっていてそれ以外の者が刀に触れると魂を持っていかれと書いてあるわ。
他の本だと、魂を持っていくのではなく、何らかの形で死をもたらすらしいけれど。
そして、その所有者は何度生まれ変わっても同じ魂の者のみ」
「それが、ルイや・・・」
・・・俺・・・。
「まあ、ルイの刀は昔ライが持っていたもの。
あの兄弟は古代の大天使ガブリエルの子孫ですもの。
魂はどうか分からないけど所有者で間違いないでしょうね。
その刀の所有者は古代からの魂と決まっている。
ここの書物に書かれている所有者は・・・。
『大天使ガブリエル』と『初代魔王』。
そして、初代魔王の魂を受け継いだ20年前の魔王『シビィクスフェリオ』とだけしかないわね。
その他は本の汚れで見えないの」
「初代魔王・・・」
俺はその話を聞きながらアグニスの隣にある椅子に座った。
「初代魔王はここインペリア研究所に良く来ていたみたいよ。
古代戦争前は人間も、神も、悪魔も仲が良かった。
しかし、人間がよりよい生活を送ろうとこの世に『機械』を作った。
その機械はすばらしいものだったが、ある日神や天使に障害の起きたものが生まれた。
それが私達『ビースト』。
ビーストの存在に気付いた『初代最神』は『人間王イヴ』に機械を使わないように言った。
しかし、人間王はそれを止めなかった。『これは皆の生活のためだ』と言ってね。
そして、最後には神と戦争になった。
最後には人間王が戦争を止め、人間は中界に落とされた。
そのことを知った『初代魔王』は人間と、神と悪魔が一緒に暮らす世界に戻そうと神に訴えたが、神はそれを断り、そこでも戦争が起きた。
戦争に勝った神は悪魔を中界よりもさらに下の地下界に落とした。
悪魔は天界に再び生活することを望み今も戦争を仕掛けてくる。
これが古代からの話ね。」
「・・・・・・・・」
「どうかしたかしら?」
黙った俺にアグニスは不安そうに言ってきた。
「あ、いや・・・ありがとう」
俺はその場から立ち上がり外に出ようとドアノブに手をかけた。
「また、何かあったら好きにここを利用して」
アグニスはそう言ってまた他の本を読み始めた。
俺はその言葉を聞いてから外にでる。
「魂・・・。俺の魂は魔王シビィクスフェリオと、初代魔王の・・・」
俺は、混乱した頭を掻きながら食事を取りに行こうと歩いた。
魂の意味と俺の存在。
今は暗闇で何も分からない。
俺の心の中は不思議な感情にかき乱されていた。
それから何事もないようにシルメリアで生活した。
だが変わらず、悪夢にうなされ、自分の心の居場所がないまま俺は今を生きていた。
ただ、自分の目的の為だけに・・・生きていた。
「おはよう。どうしたの?何だか機嫌悪そう・・・」
「ああ・・・かなり悪い。」
朝食に来ていた俺は隣に座って来たミネルを見た。
「睨まないでよ〜僕何もしてないよ。怒らないで〜」
「睨んでない。怒ってない。」
「・・・またあの夢?」
「・・・ああ」
俺は口にくわえたスプーンの先をヒクヒクと動かす。
そう、ここ最近何度も同じ悪夢にうなされている。
曇った空が浮かぶ草原に立つ、返り血を浴びた俺。
血で染まった刀を握り、天を仰ぐ・・・・。
空がますます黒く厚い雲に覆われるといつの間にか雨が降り始め、俺はまるで何かに訴えるように叫びだす。
そこで夢から覚める・・・。
「何なんだろうね・・・何かのメッセージかも知れないよ。
予知夢とか・・・。それかこれから起こることへの危険信号だとか?」
「やめてくれ・・・その解釈だと近い将来何か悪いことが起こるってことじゃないか・・・」
「あ、ごめん・・・。でも何回も同じ夢見るなんて、何かあるに違いないよ!」
「まあ今まで何度も嫌な夢は見ている・・・。なんてこと無い」
確かに今まで何度も悪夢にうなされてきた。しかしその夢はみんな昔の嫌な思い出ばかりだった。
だが今回は違う。見たことも無い風景、見たことも無い光景。
それに・・・・何かが違った。
俺の中に渦巻く大きな・・・・何かが。
「救世主様〜」
突然後ろから声が聞こえ、俺の方に足音が近づいてくる。
「おはようございま〜」
俺は立ち上がり、今いる位置から少しずれる。
ドカンッ
俺のどいた所には見事に地面に激突したコスモスがいた。
「おはよう、コスモス」
ミネルが何も無かったように言った。
「あいたたた・・・おはようございます」
コスモスは頭をさすりながら言った。
「ああ・・・おはよう」
俺も、ミネルと同じ様に挨拶する。
「コスモス、いい加減その朝のタックルやめたら?もうレイン君、完全に見切ってるよ・・・」
ミネルが笑いながら言った。
「いいの!私の想いを知ってもらう為にはこれが欠かせないの!」
「・・・・・コスモス・・・」
「はい!救世主様!」
「朝飯を持って来い・・・」
「はい!」
俺が言うと、コスモスは一目散に朝食を取りに行った。
「いい加減勘弁してほしい・・・」
「本当。今回のコスモスは根強いね〜」
「・・・・?」
「コヨーテの場合は3日で終わったし、オギロッドの時は1週間かな・・・」
「俺の場合は・・・」
「え〜っともう2ヶ月・・・かな?」
ミネルが嬉しそうに言った。
俺はただため息しか出ない・・・。
仕方なくコスモスから逃げるために、俺は早くこの場を去ることにした。
「えぇ!もう行くの?」
「ああ・・・」
そう言って歩き出すと、足元に何か毛むくじゃらの物が当たった。
「・・・スグローグ!」
「おう!レイン」
そこには狼のスグローグが立っていた。
「えらくゆっくりしているが、時間だ。行くぞ!」
「・・・どこに?」
スグローグの言葉に俺は聞き返す。
「何だ、聞いてないのか?今日は見回りだ!み・ま・わ・り!」
「見回り・・・ああ、はいはい」
思い出した、今日は初めての見回りだ!
シルメリアの周りを第7班が日替わりで見回ることになっているらしい。
俺の番が回ってきたようだ。
「いいな〜、僕も見回り行きたいな〜」
ミネルがうらやましそうに言った。
「その前に、お前は7班にならんとな」
そうスグローグに言われミネルは頬を膨らませた。
「そういう事らしいから、行くわ」
「うん。頑張って!」
ミネルが寂しそうに笑って、手を振った。
俺は少し手を上げて返事を返し、スグローグの後をついていった。
この時の俺は、これから起こる事を知るはずも無かった。
しかし、何だかにわかに胸騒ぎを感じていた。