BLUE SKYの神様へ〜こちらの世界〜


 たくさんの者が同じ方向に足を進める。

 まるで何かに導かれるように・・・・・・。

 ゆっくりシクスを歩かせると、目の前に聖獣の麒麟に乗ったライとグレーのドラゴンに乗ったアグニス、そしてその横にミネルがいた。

 ミネルは何かを必死に訴えている。

 俺はミネルの方へと駆け寄った。

 ライは俺を一瞬見たが、すぐミネルの方へ向き直った。

 「駄目だ」

 「何で?おかしいよ!」

 ライの言葉にミネルは怒りを露わにして言った。

 「僕も戦う!」

 「駄目だ」

 「何で!僕はずっとシルメリアで生きてきた。ずっとみんなの力になりたいと思ってた。

 だからこの戦いでみんなの力になりたい・・・・・。

 なのにどうして僕じゃなくて・・・・僕じゃなくて、レイン君が出れるの!

 僕だって!」

 「駄目だ!!」

 「・・・・何で!?」

 「言う通りにしろ、ミネル・・・・・・」

 急に後ろから声が聞こえ、振り向くとそこにはすらりとしたドラゴンに乗ったルイがいた。

 「ルイ・・・・・」

 ミネルが振り返りルイを睨んだ。

 「レイン・・・・・君」

 そして、ミネルは俺が話しを聞いていた事に驚いている。

 「ミネル、シルメリアの長として命じる。

  戻れ!」

 威厳あるライの言葉に、俺、ミネル、そして兄弟であるルイさえも息を詰まらせた。

 「いいな?」

 そしていつものあの崩れた顔になった。

 「・・・・・・はい」

 ミネルはそう言ってうなずいた。

 そして、そのままミネルはライの顔を見ずに後ろを向いた。

 「ミネル・・・・・・」

 俺が声をかけるとミネルは目を合わすことなく走って行った。

 ライも真剣な顔つきに戻り、ミネルと反対方向に麒麟を歩かせた。

 アグニスが後ろをついて行く。

 ライとミネルの話・・・・・・。

 『どうして僕じゃなくて、レイン君が出れるの!』

 さっきの言葉がどうしても引っかかる。

 「あまり気にするな。これから命のやり取りをするんだ。余計な事を考えるとすぐ殺られるぞ!」

 ルイがドラゴンを歩かせ始めながらそう言った。

 俺はシクスをルイの横に歩かせた。

 「余計・・・・・って」

 「心配するなと言いたかったんだ!」

 ルイが睨んだ。

 「どうしてライはミネルを出さないんだ?」

 俺はルイに聞く。

 「俺も兄貴の考えは分からんが、きっと・・・・・・。

 きっと戦場という世界に入れたくないんだろう」

 「・・・・・?」

 「ミネルは元々インペリアの森で捨てられた赤子だったんだ。

 だから、ミネルには元々親がいない。

 それに、俺や貴様のように剣術に長けてわけでもないため、今までの戦争は出ていない。

 この意味分かるか?」

 「どういう意味だ?」

 「アイツは人が死ぬのを、目の前で見たことがないんだ。

 戦争の時は、俺達7班以外はみんな地下に閉じこもっている。

 目の前で人が死んでいく、そんな世界を見ていないんだ」

 「・・・・・・・・・・」

 「兄貴は貴様に聞いただろう?

 『1度でも人の死を目の辺りにしたか?』

 ってな・・・・・・」

 「ああ・・・・・」

 「そういう事だ」

 「・・・・・・・?」

 俺の反応にルイはムカリと来たらしく、ブスっとふてくされた顔になった。

 「つまり、アイツには、戦争に関わって欲しくないんだよ!目の前で人が死んでいくのを見せたくないんだよ!兄貴は!」

 そう言ってルイは一呼吸し、顔を曇らせた。

 「俺もそうだがな・・・・・・。

  アイツは優しすぎる。

  今のアイツのままでいて欲しい・・・・・・」

 「ルイ・・・・・・」

 「俺は母親が死ぬのをこの眼で見たし、親父の死も見た。

 俺の貴様もこの世界に、この深みにはまってしまった。

 戻れない赤い深みに・・・・・・。

 だからせめてアイツにはこちら側の世界を見せたくないんだ。

 今のままで・・・・・・いてほしいんだ」

 そしてルイはフッと笑った。

 「これから命を奪いに行く俺が、こんな話していて・・・・・・まったく笑えない」

 ルイ顔を見ていた俺はプッと噴出した。

「何だよ!」

 「いや・・・・・・」

 「フンッ!」

 顔をそらしてルイはドラゴンの手綱を強く引き走らせ、前へと行ってしまった。

 「また喧嘩か?」

 そこへスグローグと息子のダングが走ってきた。

 「いや。いい兄弟だなと思って・・・・・」

 「ああ、二人とも本当にアレクに良く似ている」 

 スグローグが笑った。

 「確かに、アイツ等がいるから、俺達は立ち上がれるんだろうな」

 ダングが言った。

 「アレクさんも素晴らしい人だったが、あの二人は責任感もあるし、何より皆の未来の為、みんなの、ビーストの世界の為、戦っている。

 だから、俺たちもあの二人について行こうと思うんだろうな」

 「レイン。お前も信用しているぞ!」

 スグローグが言った。

 「ああ」

 俺は少し微笑みながら言った。








 何もない平野・・・・・・。

 木々の数も少なく、ところ所に古代人間が造った廃墟ビルが崩れかかっている。

 右には緩やかな丘があり、正面には軍事基地がそびえ立っていた。

 俺は、黒馬に乗ったオギロッドを見つけ、シクスを寄せた。

 「来たか。他の者は?」

 オギロッドが落ち着き払った声で言った。

 「もうすぐ来るはずだ」

 「そうか・・・・・。

 始まったら作戦開始だ」

 「・・・・分かってる」

 「頼もしいかぎりだ」

 俺が言うと、オギロッドは少し笑った。

 その他とすぐにルイ、ダング、スグローグが追いついた。

 皆が整列し、騒ぎたてている。

 「来たぞ!!」

 誰かがそう叫んだ時、遥か遠くに見える軍事基地から砂埃が舞い始め、ものの数分で黒の軍服と、白の鎧に身を包んだ軍人達が列を成して現れた。

 軍人は機械のように動きを揃え整列、歩兵隊が刀を構えた。

 「テントが見える」

 正面を向いているスグローグが言った。

 「本当か?」

 オギロッドが問う。

 「ああ、間違いない」

 「あそこが目的地か・・・・・・」

 オギロッドが鼻で笑った。

 「奴等の人数が分からん。

 一体あの軍事基地に何人いれば気が済むんだ?」

 ダングが頭をかきながら言った。

 「そんなの知るか。敵は敵。いるなら倒すだけだ」

 ルイがイライラしながら怒鳴る。

 と、後ろにいたシルメリア長、ライがアグニスを連れて前へ現れた。

 それを見て、ルイは俺の横を通り過ぎ、ライの横へと行った。

 そして、自分の刀を抜き、天にかざした。

 途端に周囲が静まり返り、ライルイ兄弟を見た。

 「聞け!我が同胞よ!!」

 ライは大きく叫んだ。

 「我等の強き騎士達よ!!

 戦いの時は来た!

 今こそ内に秘めた牙を向き、立ち上がれ!

 前に進む為に。

 我等の生き抜く世界の為に!!」

 ライの言葉に歓声が沸き、皆が刀を抜く。

 「レイン、刀を抜け」

 オギロッドはそう言うと自分の刀を抜き、ライの方へ行ってしまった。

 俺は言われた通り刀を抜いた。

 前に出たオギロッドはルイの反対側に立ち、ライを挟んだ状態で、馬を止めた。

 そして、ルイがしているように、刀を天にかざした。

 「我等に勝利と生きる自由を!」

 ライが叫ぶとルイは右側、オギロッドは左側に動き、先頭の列にいる者の刀に自分の刀を当てていく。

 鐘の鳴るような音が順番に鳴り響く。

 俺も、自分の刀を前にかざし、ルイの刀とぶつける。

 ルイは俺をちらりと見るとまた前を向いた。

 二人が中央まで来ると同時に立ち止まり、お互いの刀をぶつけた。

 ぶつけたままの刀を二人は保持しながら、ライの方へ進む。

 ライにぶつかる寸前で、お互いの刀を離し、二人は元の位置へ戻った。

 そして、ライ、ルイ、オギロッドは俺の方に進んできて、皆の列に混ざった。

 「気分は?」

 「まあまあ」

 俺はライの質問に曖昧に答えた。

 ライは一瞬ニヤリと笑ったが、すぐに前を見据え、叫んだ。

 「出陣!!!」

 そう聞くと皆が背中の翼を一斉に拡大させ、前へと歩き出した。

 俺も同じく、翼を広げゆっくりと軍人達に近づいていった。









▼前のページ   ●目次に戻る   ▲進む