BLUE SKYの神様へ〜名誉ある死〜
俺はルイに近寄り首元へ手を当てる。
大丈夫、まだ息はある…が。
「どうした!?」
クレシットが駆けつける。
クレシットはルイの姿を見ると、すぐに応急処置に取り掛かった。
「左の脇腹からの出血がとまらない!このままだと・・・・・」
「どうしよう…私を、私をかばって…っ、ルイが…!!」
コスモスがルイの手をしっかり握りながら言った。
「ルイ…ルイ!ルイッ」
コスモスの声にかすかにルイの指先が動く…。
「レイン、辺りを見張れ!」
クレシットにそう叫ばれ、気の動転していた俺はすぐ辺りに全神経を集中する。
クレシットは血が止まらないルイの体を布で縛る。
いきなり岩影から2人の軍人が飛びだしてきた。俺はすかさず刀を抜き、切りかかった。
1人に交わされ、もう1人はコスモスの方へ走って行く。
「クッ…」
俺はコスモスに走っていく軍人に能力で作った風をまきつけ、こちらへ引きつける。
もう一人が俺の背後から切りかかってる。
俺はそいつのわき腹を左足で蹴り、風の中でもがく奴を斬った。
ドサリッと斬りつけられた男は俺の目の前で倒れる。
「ぅあああ!」
切りつけられた仲間を見て、もう1人が声を上げ斬りかかって来る。
俺は斬りかかって来た刀を弾き飛ばしてそいつに斬りつけた。
さらに赫菊がとどめを刺す。
ドサリと言う音とともに2人の息が消える。
俺は体の力が抜け、へなへなと地面に膝を着いた。刀を地面に突き立て、それでバランスを取る。
「はぁ…はぁ…ケホケホ…」
呼吸がまた出来なくなる。
体がガクガクと震え声さえ出せなくなっていく。
だめだ!生きなければ…。俺は…。
「ケホケホ…」
落ち着け!神経を集中しろ!敵が来るぞ!
俺は先程つけた手の甲の傷を見つめた。
まだ消えない!消えたりしない!!生きるんだ!!
少しずつ感覚が戻ってくる。呼吸も整ってきた。
「何で軍は攻撃して来るんだ!日はもう沈んだはずだろ!」
赫菊が怒りの声をあげる。
「戦争の条約はどうなってる!?」
「分からない…だが今も戦闘待機している奴等がいるのは確かだ…。
とにかくここら辺の奴等をどうにかしないと!」
俺はゆっくり立ち上がり、辺りを見ながら言った。恐らく、回りにはまだたくさんの軍人が身を隠しているだろう…。
「一端本部へ退こう。我々まで条約を破ることは出来ない。それに、なによりルイが危ない。」
ルイの止血を終えたクレシットがそう言いながら俺の横へ来た。
後ろではコスモスがルイに泣きついていた。
「だが、退くとしても怪我人をかばいながら敵を突っ切るのは難しい。」
クレシットの言葉に抗議した俺は、初めてクレシットが笑っている事に気付いた。
「クレシット…?」
俺はクレシットの顔を覗き込みながら言った。
「レイン…お前はまだ生きなければならない。自分の目的の為に…。」
「何を言って…」
「私が引きつける。そのうちに…」
「「クレシット!」」
俺と赫菊は同時に叫びクレシットの顔を見た。
「だめだ!みんなで帰る!」
赫菊が叫ぶ。
「無理だ…この状況では」
「クレシット!それじゃあ死…」
赫菊が言葉を止める。
「それしか方法は…」
「クレシットを置いては行けない!」
俺がクレシットに叫んだ。
「レイン!」
俺は突然クレシットに怒鳴られた。
「今の状況を見ろ!ルイもいつまで持つか分からない。お前も精神的に参っている。」
「…」
怒鳴っていたクレシットはそれから少し優しく言った。
「私もシルメリアの幹部だ。お前達を守る事が出来るのなら…」
「…だが!」
「これは名誉ある死だ!!!」
クレシットが俺と赫菊に向かって言った。
そして、クレシットは俺の手を取り、ぐっと握った。
「ッつ・・・」
おれはさっき自分でつけた傷のうずきに歯を食いしばった。
「そして、レイン・・・・お前はまだ生きている。
やるべきことがある。
だからこの痛みが分かる。
この意味、お前は分かるな?」
「・・・・・・・・」
俺はクレシットを見た。
クレシットは俺にうなずいて見せた。
「じゃあ・・・・俺も、残る。」
「赫菊!」
赫菊の発言にクレシットは怒鳴った。
「だめだ!お前は!」
「俺もシルメリアの幹部だ!」
「だめだ!」
「俺達はこのシルメリアを守る為にここに来た!
なのにこれからこの世界を担う、この世界を変えるこいつらを守れないでどうする!!!」
「ならば!・・・・ならば・・・」
クレシットは苦しそうに顔をゆがませ赫菊の肩に手を当てた。
「ならば、俺の代わりに皆を本部まで送ってくれ。」
「クレシット!」
「お前は!」
「クレシッ・・・」
「お前は!種族をまとめる長だ!」
「・・・・!」
「分かってくれ・・・・・」
クレシットはやさしく赫菊に言った。
赫菊は唇を噛み、こぶしを強く握った。
俺はクレシットから離れ、ルイの方へ歩いて行った。
汗をかき、痛みで顔の引きつるルイを俺はゆっくり抱えた。
「シクス!」
俺の言葉でシクスが近くまで寄ってくる。
俺はゆっくりルイをシクスに乗せ赫菊に話しかけた。
「赫菊!コスモスと一緒にルイのドラゴンに乗ってくれ!」
「…」
「赫菊!」
「・・・分かった」
俺はコスモスの横で膝をつき、反応のないコスモスをゆすった。
「コスモスも分かったな?」
「・・・・」
コスモスはこくんとうなづいた。
俺はシクスとルイのドラゴンとをロープで結ぶ。
そして、コスモスをドラゴンに乗せた。
「救世主様…ルイ死なないよね?助かるよね?」
「ああ…」
「また、一緒に話しとか、出来るよね?」
「大丈夫だ…」
コスモスの差し出した手を俺はそっと握った。
コスモスの手は小刻みに震えていたが、それにも増して俺は震えあがっていた。
「急げ!辺りが騒ぎに気付いて集まってきたぞ!」
クレシットの言葉で俺はシクスに乗り、ルイの体を支えた。
「クレシットは?」
力ないコスモスが問い掛ける。俺はそれに答えられなかった。
「クレシット!」
クレシットはコスモスの頭をなでると微笑んだ。
「レイン。このまま直線だ。どんなに敵が現れても立ち止まるな!振り向くな!」
「クレシット!」
赫菊が叫ぶ。
「赫菊。お前なら長を任せても大丈夫だ。
私の分まで・・・」
「もういい・・・」
赫菊はクレシットの言葉を塞いだ。
「もう・・・・・・・・・・・いいから・・・」
赫菊はクレシットの目を見て歯をかみ締めた。
「もう・・・・・・・・・・いいから・・・」
クレシットはその顔を見て微笑んだ。
「クレシット…」
コスモスはやっと分かったらしく泣きじゃくった。
「いやだ!クレシット!嫌…」
コスモスが泣きじゃくる。
その時、辺りから人影がいくつも現れ始める。
「だめだ!クレシット!やっぱり…」
俺の言葉を遮り、クレシットは思いっきりシクスの尻を叩いた。
シクスは雄叫びを上げ走りだし、ビルの隙間を抜けた。
ビルを抜けると何十人もの軍人が構えていた。
この隙間を突き進むのは到底無理だ!
そう思った時、後ろから突風が吹き荒れ、軍人が一斉に飛ばされる。
そして、その突風の吹き荒れた後には一本の道が出来ていた。
分かっている。
クレシットの起こした突風だ。
「行け!!!!!」
クレシットの声が聞こえる。
「クレシット!」
赫菊が叫ぶ。
「必ず、必ず世界を、この世を変えろ!
行け!我らの希望よ…思いを繋ぐ者よ!!!」
クレシットのその言葉の後、後ろからものすごい爆発音が聞こえた。
「クレシットぉぉ!」
赫菊が叫んだがその声は爆発音に掻き消された。
「クッッッそおぉ!」
俺は前だけを向いて突風で出来たまっすぐな道を好き進んだ。
辺りの風景は何も見えない。
「クレシットぉぉぉ!クレシットぉぉ!」
赫菊が後ろを振り向き、泣き叫んだ。
「クレシットオオォォォォォ!!!」
俺は絶対に後ろを振り向かなかった。
いや、振り向けなかった。
消えかかるルイの鼓動が何故か大きく聞こえた。