BLUE SKYの神様へ〜店先の戦い〜
息を切らしてたどり着いたのは、店の向かい側にある崩れかけた塀の影だった。
店の様子を見ると、気の悪そうな盗賊達がちょうど店の真ん前に来て、店を覗こうとしている所だった。
「まだ来たばかりのようだな」
「でも・・・お父さん・・・」
俺は今にも走って行きそうなルシーナの腕を強く引っ張った。
「出て行ってどうするんだ?戦えるのか?」
俺は戦えるが、ルシーナが出て行ってどうなるかは目に見えている。
「なら他の人達を呼んで来る。助けてもらいましょう。
二人では到底無理よね・・・」
俺はそれでもルシーナの腕は放さずに、店に注意を注いだ。
町の連中が加わって、大きな揉め事になってはいけない。
この店の評判も落ちるし・・・。
「あぁ?何言ってんだおやじ!」
その声と共に店の主人が外に放り出された。
「父さん!!」
俺は腕を掴む手に力を加え、ルシーナが出て行こうとするのを止める。
「離して!このままだと父さん死んじゃう!」
だんだんと店の周りの人々も、状況に気付いてきたようだが、誰も主人を助けようとはしない。
俺はどうにかそいつらの話を聞き取ろうと耳に神経を使った。
「ここに緑の髪のガキが来ただろうが?」
「!!!」
かすかに聞こえたその言葉で、俺は掴んでいたルシーナの腕を離し、立ち上がった。
主人は知らないと言い切っている。
当然だ。
俺は店に行ってから一度もフードを取っていない。
主人は俺の髪が緑だとは知らないのだ。
「何?どうしたの?」
ルシーナが急に立ち上がった俺に声をかけてくる。
「ダメ!行ったら殺される!!」
さっきまでと打って変わって、逆にルシーナが俺の腕を引っ張った。
「・・・・」
俺はルシーナに笑いかけ、掴まれた腕を振り払った。
「左目に傷の入ったガキだ!この店に出入りしていたのは分かっているんだぞ!」
ボスらしき男が、主人の胸ぐらを掴んで言った。
「隠すな!分かってるんだよ!!」
俺はそう言っている奴らに向かって歩き出し、フードを脱いだ。
「知らないよ・・そんな客」
「何?まだ隠す・・」
その言葉の途中で、俺の存在に気付いた盗賊のボスは、主人を地面へ突き放し、俺の方に体を向けた。
周りの盗賊達が俺の周りを囲み、剣だの、ナイフなどを抜いた。
敵はざっと二十人・・俺一人で・・・やれるはず。
「お前か?緑髪のガキは?」
ボスは俺を見てニヤリと笑う。
「お前を殺せば俺たちは儲かるんだ。その命、俺たちにくれやしないか?」
そう言い終わると同時に、周りの下っ端共が体制を低くして、構えた。
「悪いがまだやらなきゃいけない事があるでね。
この命・・やるわけにはいかないんだ。」
俺はそれだけ言うと一番近い男の刀をたたき、地面に落とした。
その瞬間から男達が俺に向かって飛びかかってきた。俺は一人の男の頭に手をかけ、飛び越えた。
「ぐずぐずするな!やれ!!」
ボスはニヤリと笑い、仲間に命令した。
その途端、真正面から二人の男が刀を構え、向かってきた。
俺はそいつらの攻撃をぎりぎりでかわし、一人には頭に蹴りを、もう一人には後頭部に拳をおみまいしてやった。
次に後ろから攻めて来た男の腕を掴み、顔面に肘をぶつける。
そして、そのまま隣の男に体を投げつける。
そいつらは一緒に地面にたたきつけられた。
「くっそ!」
声を上げてさらに違う奴が刀を突きつける。
俺は左の掌に力を入れ、そいつの肩に当てた。
そして、そのまま走りぬけ、一番近い男の口に左手を当てた。
「うわぁ!!!」
後ろで男が声を上げる。
そいつはさっき俺が肩に手の平を当てた男で、男の肩はピキピキと氷ついていた。
そして、隣の男は俺が手を離すと膝を突き、口の周りを唸りながら必死にこすっている。
男の口も、肩の凍った男と一緒で氷ついていた。
「お前!何をした!!」
周りの動きが止まり、うめく二人を見た。
「ただ体の水分を凍らしただけだ。
すぐには死なないが、急いで溶かした方がいいぞ」
「お前・・・化け物か?」
近くにいた男がそう言い、口の凍った男に肩を回して、俺から遠ざけた。
「化け物にしても、こいつを殺せば俺たちは億万長者だ。
何をやっている!かかれ!」
ボスが叫ぶと同時に、盗賊達が俺に向かって走り出した。
俺は右から来た男の横腹を殴り、後ろから来る奴の顔面に蹴りを入れる。
「くそっ!!」
人数が多すぎる!こうなったら・・・。
俺はいったん周りの男達に蹴りや拳をお見舞いし、払いのけると、両手に力を入れた。
体の全神経を指先に集中させる。
「何かやらかすつもりだぞ!
その前にしとめろ!」
「・・・・もう遅い!!」
俺は膝をつき、勢いよく地面に両手をつけた。
地面に一気に力を放出させる。
しかし、何も起こる気配はない。
驚きのあまり思わず動きを止めた盗賊達は一斉に笑い出した。
「何も起こらんではないか!」
俺はゆっくり立ち上がり、ニヤリと笑った。
同時に盗賊達の足がズボズボと埋まっていく。
「な、何だ!!」
足首がすっぽりはまって動けなくなった盗賊達はわめき、そして俺を見つめた。
「はぁ・・・・」
大きなため息をつき、ボスの方へ歩き出した。
・・・・!
突然何か嫌な感覚に襲われた。
前にも感じた・・・この感覚・・・。
どこだ・・・。
俺は辺りを見回した。
・・・・後ろ!
後ろを振り向くと、一人の男が立っていた。
その男はつばの長い帽子をかぶり、俺に笑いかけた。
そして、俺に向かって手を差し出した。
「くそっ!!」
俺は走り出し、腰に挿している刀を抜いた。
全速力でそいつに向かって走る。
が、あいつは掌に黒い渦を作りだした。
その渦は間違いなく俺に向けられている。
間に合え!!!
ドス・・・・
鈍い音で二人の動きは止まった。
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