BLUE SKYに歌声を〜屋上で〜


 僕は、ハァと改めてため息をついた。

 ギュウギュウの登校ラッシュのバスに揺られ、昨夜のことを思い出す。

 「一体何だったんだろ・・・」

 急に男の子は現れるわ、助けろって言い出すわ、助けたら眠りだすわ・・。

 明らかに人間の人種では出ない明るい赤茶色の髪に、一般の市民の服装には考えにくい格好。

 「あの感じからして、アイドル?有名人?」

 でも、言ってはいけないが、あんな人テレビで見たこと無い。

まあ、テレビを見ることが少ないからもしかしたら・・・。

 でも明らかにおかしいのはあの・・

 「翼・・・」

 その少年はまだ僕の部屋で寝ている。

 何回起こしても反応が無いし、どうしようもないので押入れに入ってもらった。

 本当に泥棒だったらどうしよう・・・。

 そんなことを考えながら学校前で止まったバスから降り、校門をくぐる。

 僕は滝本正太郎。高校3年生の一般市民。

 今大学受験を控えている受験生。

 なのに・・。

 何だか変なことに巻き込まれてなきゃいいけど・・・。

 

 

 

 変なことに巻き込まれているとはっきり判明したのは昼休憩の前の授業。

 一番隅の席に座って、授業をぼんやり聞いていた時に起こった。

 「受験勉強の為!」と分かっているがここのところ息抜きをしていないせいか、はたまたお腹がすいているせいか僕は窓の外を何気なく眺めていた。

 夏の近付きを感じる少し生暖かい風が吹き、僕はそれを感じるように目を閉じる。

 髪に風がまとってくる。ほのかに緑の香りがした。

 そっと目を開けるとそこには・・・

 「な・・!」

 僕は声を上げそうになって、思わず口を手で押さえた。

 そして開けていた窓を思いっきり閉めた。

 「どうした?滝本」

 「え・・・いや・・・何でもありません。ちょっと風が煙くさくなってきて・・・」

 「そうか?受験勉強のしすぎで参ってるんじゃないか?」

 「いえ・・・・そんなことは・・・」

 「いいかお前ら!滝本ぐらいふらふらになるまで勉強するのが受験勉強だ!滝本を見習え!」

 「先生!滝本は別ですよ。あんなに勉強したら俺、頭パンクする」

 先生の話に返事をしたクラスの子が、ふにゃふにゃと机にもたれた。

 クラスメイトがどっと笑ったが先生が雑談は控えようと言いまた黒板に文字を書き出した。

 僕はそっと窓に目をやる。そこには夜中に僕の部屋に来た、そして今は僕の部屋でぐっすり寝ているはずのあの男の子がいる。

 男の子は僕と目が合うと、嬉しそうに手を振った。

 僕は見て見ぬふりをしようとしたがどうしようもなく何の反応もできなかった。

 すると男の子は身振り手振りで何かし始めた。

何やらジェスチャーのようだ。

 何々・・・・。

 ご飯?昼休憩か!

 昼休憩に・・・上?あぁ、屋上に。

 一人で・・・来い!

 「昼休憩に屋上へ一人で来い」

 そう伝えると男の子は何だが難しそうに上へ上って行った。

・・・上っていった?

そう・・・ここは

「三階だよね・・・」

 

 

 

僕は屋上に続く階段を上り、重いドアをゆっくり開けた。

まぶしく光が差し込んできて、僕は少し目を細めた。

目が慣れると歩き出す。辺りを見回して見たが、何も無い広い空間が広がるだけだった。

この学校は各校舎に屋上があり、他の校舎はベンチやテーブルがある。だがここの校舎は一番古い建物で、昼食を取る生徒の姿は無い。というか誰もいない。

「こっち」

「・・・?」

急に声が聞こえ、辺りを見回す。

「上、上!」

上と言われるまま首を少し上げると、階段の屋根の上からあの男の子が手を振っていた。

「あ・・・あの」

「話はこっち来てから」

「・・・・。」

僕は聞こうとしていた質問を一旦飲み込み、屋根の方に近づいた。

「ん!手」

そういって男の子は僕に手を差し出した。

僕はその手をつかんで彼の力を借りながら、やっとのことで屋根に上った。

「はあ・・・はあ・・・」

「お前、運動神経ないな〜」

「そんな・・・こと・・・・」

僕は息を切しながら男の子の方を見た。

男の子は座りなおし空を見上げていた。

赤に近い茶色、それよりもっと赤い目、そして背中の翼。

「あのぉ・・・」

「・・・・?ああ。ごめんついぼ〜っとしちゃって」

僕がずっと見ていたせいで男の子は僕の視線が気になったみたいだ。

「青空の日はこういう所でのんびりするのが好きで

「・・・はあ」

「昨日は助けてくれてサンキュー。

俺は焔(ほむら)。一応天使の十七歳。よろしく」

「へ・・・?ああ。はい」

 僕は急な自己紹介に面食らった。そしてある言葉に疑問が沸いた。

「・・・テ・ン・シ?」

「そう!」

「まさか〜」

「うわっ!信じてね〜」

「だって・・・」

僕は信用していない目を向けた。

「じゃあ、この羽は!」

「作り物?」

「アウチ!夢が無い!」

「夢がどうとか言ってる年は過ぎましたから」

僕はめがねをかけ直しながら言った。

「じゃあ今の夢は?」

「今の?」

「将来の!」

「無いよ・・・そんなの・・・」

僕は・・・そんなもの持ってはイケナイ。

「はあ・・・。

 滝本正太郎。高校3年生の受験生。

 学年三位の成績を持つ優等生。

 父親が医者。母親は看護士。その為、医療関係の大学の受験を希望している。

しかし、その将来見取り図以外に求める職業を胸の中にひっそりと考えている。

だがその職業は誰もがすんなりと出来るわけでもなく、親の厳しい家庭の為夢のままで終わろうとしている」

「・・・!」

当たっている・・・・。

「何で?」

「何でって俺はお前の夢を叶えるために来たんだよ」

「・・・?君は」

「焔!」

「えっと・・・焔君は」

「ほ・む・ら・!」

「・・・・焔は一体何者?」

僕の心の中まで分かってる・・。

「だから天使!

 お前の・・・正太郎の夢を叶えるのが俺の今回の任務」

「任務?」

「そ!任務!」

僕達二人に夏の近付きを感じさせるそよ風が吹いた。

 



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