BLUE SKYの神様へ〜勝利の先は〜


 「!!!!」

 俺の髪を少し掠め、長刀は止まった。

 「あなたは・・・・・・」

 デストロイが何かを言おうとした、その時。

 目の前に影が現れ、俺とデストロイの間に壁を作った。

 「悪いな。こいつはまだ、うちの戦力に必要な人材だ」

 「ダング!」

 ダングは俺の方を向いて、鼻で笑った。

 しかし、そこにあのダングの姿はなかった。

 歯・・・いや、牙を突き出し、獣のような瞳。

 肘からは骨のような光る刃物が突き出ている。

 手足の爪は伸びきって、尖っていた。

 「フンッ」

 ダングはデストロイの長刀を払いのけ、俺を抱え込んで地を蹴った。

 「ダング!」

 抱え込まれた俺は、その場から一目散に逃げるダングに叫んだ。

 デストロイがどんどん遠くなる。

 辺りの軍人もあっという間に過ぎていった。

 風を切る音が耳元で聞こえる。

 「悪いな。レイン」

 俺は何の抵抗も出来ず、すごいスピードで動く世界をただ見つめていた。

 これが、ダングが種族から迫害を受けてきた訳・・・・。

 スグローグがシルメリアに入った訳・・・。

 俺は熱くなっていた脳をゆっくりと冷ました。

 ダングのスピードでさっきまでいた丘を越えて、シクスの待つビルまで着いていた。

 「貴様!」

 俺がビルの物陰に入ると、ルイが突然出てきた。

 「貴様のせいで作戦は失敗だ!」

 「・・・・・・・」

 俺が黙っていると、後ろからオギロッドが出て来た。

 「ダング・・・・・・悪かったな」

 「いや。こんなのお安い御用!」

 ダングはそう言うとビルの物陰に入っていった。

 「オギロッド・・・あの・・・その・・・・・」

 「失敗は失敗だ。」

 「・・・・・・」

 「しかし、もしあそこでレインが飛び込まなくても状況は変わっていないだろう」

 「だが!」

 オギロッドの話に、ルイが怒鳴る。

 「今は戦場にいるのだ!今の状況を把握し、これからの事を考えろ!」

 オギロッドがそう叫び、ルイは俺を睨むと影に消えていった。

 「レイン・・・・・」

 「・・・・・・・」

 オギロッドは俺を見つめてきた。

 「ワシは今までお前を見てきた。

  お前は頭も良いし、状況の把握も出来るはず。

  お前は昔のワシに似ている。

  今のワシにはない、何かを持っている。

  それを戦いの中で活かしていけるはずだ」

 「オギロッド・・・・・・?」

 「熱くなるのは分かる。だが、もう少し冷静に物事を考えろ!

  お前はもう一人で戦っているのではない。

  我々シルメリアの旗の元で、一人の戦士として戦っているのだ」

 「ああ・・・・・・」

 俺は曖昧に答えた。

 「勝利の為に。

  たとえ命が削られてもこの戦い、勝たなければ。」

 「・・・・・・!」

 「勝利し、シルメリアの力とするのだ!」

 「・・・・・・オギロッド」

 「何だ?」

 俺は、ビルの陰に隠れようとしているオギロッドに声をかけた。

 「この戦いは何の為にしているんだ?」

 「決まっている。我々の勝利のためだ!」

 オギロッドはそう言って奥へと行ってしまった。

 「違う・・・・・」

 俺は拳を作った。

 「勝利は・・・・・・そんなものじゃない」

 俺はオギロッドの後を追った。







 「レイン!無事で何より・・・です」

 奥に入るとコヨーテが俺に声をかけてきた。

 「ああ・・・・・コヨーテも」

 「ええ・・・なんとかね」

 コヨーテはボロボロになった白衣をはたきながら笑った。

 周りには他にたくさんのビースト達がいた。

 皆怪我を負っているが、今のところ重症者はいないようだ。

 「状況は?」

 「今のところ、こちらが有利ですね・・・。

 しかし、軍はまだ二軍を送ってきていないので、これからどうなるかまだ分からないですよ・・・」

 俺の質問に、コヨーテはビルの隙間から外の様子を見つめた。

 「この辺もまだ戦場になっていませんし、もう日が暮れる。

  もう少しの辛抱・・・ですかね」

 「そうでもないみたいだ」

 コヨーテの話に姿を戻したダングが言った。

 「さっきこいつを迎えに行った時、こちらに軍人が来るのが見えた。

  ものの数分でここも戦場となるだろう」

 「そうですか・・・」

 コヨーテはため息をついた。

 本当に数分で叫び声と共に軍人とシルメリアのビーストが戦いを始めた。

 戦場はどんどん大きくなる。

 いや、さっきまで戦場だったのが死の世界に変わっているかもしれない・・・。

 「我々も加勢すべきでは?」

 「いや・・・状況把握をしてからだ。

  もうあと数分で日が沈む」

 オギロッドがコヨーテの質問に答える。

 俺は戦場を見つめていた。

 斬って、斬り返されて・・・。

 その光景を俺はただ遠くから見ていた。

 「・・・・!!!」

 間近で一人のビーストが地面に倒れこむ。

 俺はビルの隙間から抜け出しそこへ行こうとした。

 「レイン!」

 走りだそうとしていた俺の体がぴたりと止まる。

 後ろを振り返るとオギロッドが俺の腕を掴んでいた。

 「行くな!」

 「何故?!」

 「今お前が行ってどうなる!」

 「どんなに加勢しても何も影響がないのは分かっている!

  だが、目の前で仲間が殺されているんだぞ!

  そんなの見ていられるか!」

 「それが戦場だ!」

 「・・・・・・」

 俺は下を向き、黙った。

 違う!

 「レイン?」

 オギロッドが俺の顔をのぞきこんできた。

 「オギロッド・・・・」

 俺はまっすぐオギロッドを見た。

 「やはりお前も軍人と一緒か・・・」

 「何・・・?」

 「戦争に勝利する為に戦っている・・・」

 「そのとおりだ。我々はその為に・・・」

 「違う!」

 俺はオギロッドの手を振り払った。

 「違う!」

 「・・・・」

 俺は両目を見開き、言った。

 「勝利の為に友を見捨てて・・・

  勝利の為に死を選んで何になる!

  俺達が戦うのは勝利の為なんかじゃない!

  勝利の先にある世界の為だ!

  戦場で戦い、勝利し、新しい世界を作る為だ!

  なのに、ここで死んでどうする!

  勝利しても勝利した者が死んでどうなる!」

 俺は叫びオギロッドを睨み付けた。

 オギロッドは言葉を失っていた。

 俺はそんなオギロッドから離れ、戦場に向かった。










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