BLUE SKYの神様へ〜今亡き当主の力〜
「・・・・・・・!」
深い眠りについていた俺は急に目が覚めた。
起き上がり、ゆっくり深呼吸する。
何か夢を見ていたようだが、思い出せない。
「ハア・・・・・・」
今度はため息をついた。
そして、ベッドから起き、小春から借りている髪留めで髪を高く結ぶ。
鏡を一瞬見つめ、俺は左目を閉じた。
そして部屋の外へと歩き出した。
外に出るとまだ暗く、あれから数時間しか経っていないようだ。
俺は本部に向かう事にした。
歩きながら、まだ続いている宴会を眺める。
ドン・・・・・・。
俺の肩に人の肩が当たる。
「あ、ごめんなさ・・・・・・」
そいつは俺に謝ってきた。
「ミネル・・・・・・」
「あ、レイン君・・・・・・」
ミネルは俺の顔を見ると下を向いた。
「ごめん・・・・・・」
「あ・・・・・・」
ミネルはそれだけ言うと俺の横を通り、走って行ってしまった。
「ミネル・・・・・・」
『どうして僕じゃなくて・・・・・・・僕じゃなくて、レイン君が出れるの!?』
戦場に行く前に聞いたミネルの叫びを思い出す。
「何をやっている?」
急に後ろから声が聞こえ振り向くと、巨大な体が俺の視界を遮っている。
「クレシット!」
「そんな所に立っていると、通行の邪魔じゃないか?」
「ああ・・・・・・すまん」
クレシットは俺を見下ろすとくちばしを緩め笑った。
「これから本部に向かうが、一緒にどうだ?」
「あ・・俺も行こうと・・・・・」
「それなら話は早い」
そう言ってクレシットは俺の前を歩き出す。
クレシットの横に並んで、俺は少し小走りで進む。
「お前はついこないだ、ここに来たらしいな」
クレシットがそう聞いてきた。
「ああ。まあな」
「そうか・・・・・・」
クレシットはそれだけ聞くと前を向いた。
「あ!クレシット」
目の前に突然、緑の体をした赫菊が現れた。
「レインも一緒か。何やってんだ?」
「これから本部に向かおうかと・・・・・・」
クレシットが答える。
「ああ。今行っても無駄だぜ。
ライもルイのガキも、みんな酔いつぶれて寝てる。
アグニスは書物庫に向かったし」
「そうか・・・・・・」
「無駄足のようだな」
俺がそう言うと。
「暇か?じゃあ俺達も飲み比べ大会するか?」
赫菊がニヤリと子供じみた笑みをこぼした。
「何を言っている。それぞれの長が皆酔い潰れてどうする」
クレシットがそれを叱った。
「へいへい・・・・・・まあ俺達植人種は植物だからな。絶対酔う事もないんだけど・・・・・・」
「赫菊!」
「あ〜なんでもありませんっての!」
赫菊が口を尖らせた。
「もう数時間したら出発だ。自分達の種族にも連絡をとっておけ!
ここの長がその有様なのでな」
クレシットがふてくされた赫菊に言った。
「まああの性格は一生直らんな。親父もあんなんだったし」
赫菊がフッと笑う。
「そうだな・・・・・・」
クレシットがやれやれという顔をする。
「そんな長い付き合いなのか?このシルメリアとは」
俺が質問する。
「ああ、ライの親父のアレクから、俺たちはシルメリアと一緒にいる。
住むとこが違えどな
赫菊が言う。
「我々種族を救ってくれたのだ。
だから、我々はこのシルメリアの為、いや長の為に戦いに加わる」
赫菊の言葉にクレシットが付け加える。
「この世界を、我々の生きる場所を変えてくれると信じてな」
「・・・・・・・・!」
俺はその言葉に言葉を失った。
「レイン?」
赫菊が声をかける。
「あ。いや、なんでもない」
「ふ〜ん・・・・・・ならいいけど」
信頼関係の強さ。
それがこのシルメリアの力なのだろう。
俺は改めてライや、元長アレクの力を感じた。
「さあ、本部へ行かないのなら私はこの辺で種族の者達の所へ行こうとするか。」
クレシットがそう言い歩き出す。
「ではな、二人共」
背中を見せながらクレシットは去っていった。
「いつもながら、クレシットは硬いんだからなあ」
去っていくクレシットを見つめながら赫菊は言った。
「赫菊は昔からシルメリアに入ってたのか?」
俺が赫菊に聞いた。
「ああ、長の親父であるアレクに無理矢理誘われてな」
赫菊が嫌そうに目つきを変えて言った。
「クレシットと一緒にか?」
「いや、クレシットは俺が入った時にはもういた。」
そう言って赫菊は近くの岩に座った。
「俺は元々植人種の奴等と盗賊をしていたんだ。
この時代だ。ビーストの俺達はそうでもしないと生き延びれないからな」
「戦後か・・・・・・・」
「ああ、最悪だった。
ビーストの俺達には直接影響は無かったが、住む所をなくした者が一斉に森に入ってきたもんで、俺たちも住む場所を追いやられた。
さらに、やり切れない怒りをぶつける場所も無い神々共は俺たちを狩の獲物にした」
「俗に言うビースト狩りか!」
「ああ、そこで俺は種族の奴等を引き連れて・・・・・・」
赫菊は下を向き、ため息をついた。
「そんなある日、たまたま襲った奴らがアレクとクレシットだったんだ。
まさか他のビーストが自分達の森に来るとは思いもよらなかったし、ましてや『力のビースト』と呼ばれた鳥人種を引き連れた天使がいるとは思わなかったんでな」
「そこで仲間に?」
「ん〜・・・・・・半ば無理矢理な。
この世の中で、急にビーストや、迫害を受けてきた奴等の為に安らいで住める場所を作って、さらに世界を変えていくなんて言われたらなあ・・・・・・。
ぶっちゃけ警戒するだろう?
こいつら頭おかしいって」
赫菊はそう言って俺に笑った。
「出会った早々、人の頭グシャグシャに撫で回して、
『こいつは仲間にする!』とかぬかして!
こんな顔つきでこんな背丈だが、俺はお前より上年だっつーの!」
赫菊はアレクの顔まねをする。
「・・・・・でも、アレクの決意は本物で、俺もクレシットと同様そいつに惹かれてた。
本当バカ丸出し、へらへら顔でえらい事しようと考えたもんだ」
「・・・・・・・・」
「それからここのインペリアを拠点と考えて、シルメリアを結成した。
そんでもって、スグローグやダング、オギロッドにマルフィス達が早く入ってきた。
そこからどんどん増えたな」
「何で、インペリアから離れたんだ?」
「んん・・・・・・・」
赫菊は俺の質問に少し困った。
「まあ一番は人口が増えた事だな。
ライやルイのガキ、も生まれて、四区域も出来た事。
正直ここまで大きくなるとは思ってもみなかった・・・・・・。
まさかアレクのバカについてくる変人は俺とクレシットぐらいだと思ってたからな。
あとは・・・・・・・」
「・・・・・・・?」
赫菊はまだ星の出ている空を見つめた。
「あとは、クレシットと決めたんだ。
共に、シルメリアを守ろうって。
だから俺は南、クレシットは北で、シルメリアの周りを監視して戦争が起こったらすぐここに駆けつけるようにしようって・・・・」
「・・・・・・・・」
「そして、自分達の種族も守っていこうてな!」
赫菊は悲しそうに笑った。
「だから俺達はここにいる。
シルメリアを守って、アレクが願った世界を創る為にな!」
赫菊はそう言うと、岩から立ち上がった。
「俺も、行くわ!」
「ああ、悪かったな、色々聞いて」
「いや、年になると昔話をしたくなるんだよ!」
赫菊は歯を見せて笑った。
そしてクレシットと同じように、背を向け歩きだした。
俺はそいつの背中を見た。
みんな、この世界を変えたいんだ。
みんな・・・・・・・
俺は赫菊が座っていた岩に座った。
空を見上げる。
透き通った空は、星の光をそのまま映しているのだろうか?
それともすでにそこにある星は幻なのだろうか・・・・・・。
俺は左目を開け、ゆっくり空に手を伸ばす。
俺が目指している世界は、この星々のように小さく遠い。
それを分かってはいても、人は・・・・・・・俺は、その星に向かって行くのだろうか。
開いた手のひらを握った。
「これから・・・・・・・これから・・・・・・だ」
夜の空はどんどん光りを放ち出した。
その光は戦争という風を起こす始まりの光だった。